研究課題/領域番号 |
22248002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥野 哲郎 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00221151)
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研究分担者 |
海道 真典 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (20314247)
三瀬 和之 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90209776)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 植物ウイルス / Arf1 / ER膜 / ゴルジ体膜 / RNA複製 / フォスフォリパーゼ / 膜輸送系 / フォスファチジン酸 |
研究概要 |
植物プラスセンスRNAウイルスであるRed clover necrotic mosaic virus (RCNMV)の複製酵素タンパク質と相互作用する候補宿主タンパク質について、さらに免疫沈降/質量分析解析を行い、新たなタンパク質を多数同定することに成功した。そこにはphospholipase D (PLD)、Tm1、AGO2などが含まれていた。これまでの研究でp27と結合する宿主タンパク質としてシャペロンタンパク質であるHSP70,HSP90及び膜輸送系に関わるsmall GTPaseであるARF1を同定し、HSP70とHSP90はRCNMV RNA複製複合体形成過程で重要な役割を担うこと、Arf1はp27によりER膜にリクルートされ小胞体膜改変,すなわちRNA複製場の構築に重要であることを既に報告してきた。今回、p27はERとゴルジ間のCOPI/COPII輸送経路に加え、さらにゴルジ系から細胞膜への膜輸送系にも影響することが分泌マーカータンパク質を用いた実験から分かった。 PLDはホスファチジン酸(PA)の産生に関わる酵素である。PLDノックダウン植物ではRCNMVに対する感受性が低下すること、また、RCNMV感染は植物組織中のPA量を増大させることが分かった。さらに外部からPAを加えるとin vitroおよびin vivoいずれにおいてもRCNMV RNA複製が促進された。これらの結果からPLDとその産物であるPAはRCNMVの複製に必須の因子であることが示唆された。 RNAサイレンシング関係では、RCNMV感染によりAGO2の発現が誘導されること、AGO2ノックダウン植物ではRCNMVに対する感受性が増大することから、AGO2はRCNMVに対する抵抗性に関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ウイルスRNA複製とRNAサイレンシングとの関係を明らかにするという本研究の目的からすると、新たな免疫沈降/質量分析解析により複製酵素と相互作用するタンパク質としてRNAサイレンシング関係のタンパク質を新たに多数同定できたことは大きな成果である。また、これまでウイルス複製においてその役割が明らかでなかったPLDとPLDがその生産に関わるフォスファチジン酸(PA)がRCNMVのRNA複製において重要な役割を担うことが分かった。PLDは酵母ではArf1により活性化されると報告されている。Arf1はp27によりER膜にリクルートされ小胞体膜改変に関わることが分かっている。興味深いことにin vitro翻訳複製系及びプロトプラスト系でPAを添加するとRCNMV RNA複製が促進されること、さらにRCNMVが感染した植物細胞ではPA含量が増大することが分かった。PLDとPAのウイルス複製における役割はこれまで報告されていない。本発見は、細胞内膜リモデリングなどウイルスRNA複製でのPAの役割解明に繋がることが期待できる。また、これらの発見はウイルス学以外に生物学一般の進展に大きく貢献できるものと期待できる。さらに今回、RCNMVのRNA複製タンパク質と相互作用する宿主因子として、トバモウイルスに対する抵抗性遺伝子として用いられているTm1遺伝子がコードするタンパク質が同定された。Tm1ノックダウン植物のRCNMVに対する感受性が増大したことからTm1はRCNMVに対して抵抗性遺伝子として機能することが示唆された。このことはTm1がトバモウイルス以外のウイルスに対しても抵抗性因子として利用できることを示しており、植物ウイルス病防除の視点からも予期せぬ大きな成果と考える。
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今後の研究の推進方策 |
RNAウイルスの複製と細胞内膜系のリモデリングの関係についてはその詳細はまだほとんどが未知である。平成24-25年度にはArf11が細胞内膜系のリモデリングとRNA複製で重要であることを報告したが、今回、あらたにPLDとPAがRCNMV RNA複製において重要な役割をもつことが明らかになった。その分子機構を明らかにするため、以下の研究を行う。1)複製タンパク質のp27とp88いずれのタンパク質がPLDと相互作用するかを明らかにし、その後、相互作用に必要な領域を同定する。2)p27とp88が結合する膜構成成分である脂質(PA、様々なリン脂質)をLipid overlay assayなどを用いて同定する。3)RCNMV感染細胞における脂質成分の変動とPLDの細胞内局在性を明らかにする。これらの研究からRNAウイルス複製と細胞内膜系リモデリングにおけるウイルスタンパク質と宿主タンパク質の分子ネットワークが明らかになることが期待される。 一方、ウイルスの病原性とウイルス抵抗性の研究では、RCNMVRNA複製酵素タンパク質と相互作用する候補タンパク質のAGOタンパク質(AGO1、AGO2、AGO4、AGO7など)、dicer-likeタンパク質(DCL2、DCL3など)、及びTm-1タンパク質についてはRCNMV感染によるそれらの発現変動をさらに詳細に解析していくとともに、それらの遺伝子のノックダウン植物タンパク質のRCNMV感受性を検定し、これらのタンパク質とウイルス感染の関係を明らかにしていく。 ウイルス複製タンパク質のさらなる機能と役割を明らかにするため、複製酵素タンパク質p27の翻訳後修飾(アセチル化、メチル化、ユビキチン化)について恒常的アセチル化、脱アセチル化の変異タンパク質を持ち解析を進める
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