研究課題/領域番号 |
22248004
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
日下部 宜宏 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30253595)
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研究分担者 |
山本 公子 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫科学研究領域, 主任研究員 (40370689)
LEE JAEMAN 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (50404083)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / クロマチン / カイコ / 染色体 |
研究概要 |
1) H3K27-Polycombシステムについては、ポリコーム遺伝子ノックダウン細胞のマイクロアレイ解析から同定されたカイコゲノム上のPolycombシステム標的遺伝子ASNSについて、その転写が細胞周期に依存したPolycombによる抑制とC/ebpに依存した活性化の競合により制御されていること、またその制御にかかるプロモーター上の領域を同定した。 2) カイコヘテロクロマチン制御に関わる遺伝子群の機能解析については、カイコアルゴノート遺伝子SIWIとAGO3がH3K9-HP1システムと核において相互作用し、その相互作用は転写に抑制的に働くことを明らかにした。カイコHP1bはHP1aと比較して強い転写抑制活性を示すが、SIWI-AGO3に依存して転写調節領域にリクルートされた場合、その効果はHP1aに依存することも明らかにした。 3) 遺伝子組換えカイコにおける導入遺伝子の安定性制御とエピジェネティクな発現制御機構には、カイコ細胞核内におけるクロマチン領域の空間制御に関する理解が必要であり、クロマチンループ形成におけるカイコインシュレーターCTCFとその相互作用因子CP190をクローニングした。これらの遺伝子のノックダウン細胞を作製し、次世代シーケンサーを用いたRNA-Seq解析を行ったところ、200個以上の転写亢進遺伝子を見出した。 4) カイコH3合成遺伝子(同一のアミノ酸配列を持つが塩基配列の異なる人工遺伝子)においてK4、K9、S10、K27それぞれに点変異を導入し、細胞に導入後、内在性のH3遺伝子をノックダウンしたところ、S10については細胞周期のM期遅延がみとめられ、その他の変異体についても細胞増殖の抑制が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) Polycombシステムについては、ゲノムワイドな標的遺伝子を網羅的に同定し、その制御には必ずしも全てのコンポーネントが必要ではないことを明らかにできた。また、標的遺伝子の1つであるASNSについて、その転写が細胞周期に依存しており、抑制と活性化の競合により制御されていることを明らかにしたことは高く評価できる。 2) カイコアルゴノート遺伝子SIWIとAGO3がH3K9-HP1システムと核において相互作用し、その相互作用は転写に抑制的に働くことを明らかにした。アルゴノートとHP1システムの相互作用については、ショウジョウバエにおいて1例の報告があるものの、疑問視されていた。この相互作用をSIWIが発現する唯一の培養細胞カイコBmN4細胞で明らかにしたことの意義は大きい。 3) カイコ細胞核内におけるクロマチン領域の空間制御について、これまで知見がなかったクロマチンループ形成に関与するカイコインシュレーターCTCFとその相互作用因子CP190を同定できた。これらの遺伝子のノックダウン細胞において、200個以上の転写亢進遺伝子を見出したことから、遺伝子組換えカイコにおける導入遺伝子のエピジェネティクな発現制御機構を解析する上で好適な標的遺伝子を同定できた。 4) カイコH3合成遺伝子においてK4、K9、S10、K27などの点変異タンパク質を内在性のH3遺伝子と置き換えるシステムを構築できたことの意義は大きい。同システムを利用することによりカイコヒストンコードの解明が飛躍的に進むと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、 カイコインシュレーターCTCFとその相互作用因子CP190のノックダウン細胞を用いたRNA-Seq解析を行った。本年度はこのデータをゲノムワイドに解析し、カイコゲノム中においてインシュレーターにより強くブロックされている遺伝子群の解析とそのクロマチン制御について解析する。加えて、これまで、機能が不明であったカイコDN Aのメチル化修飾についいて、DNAメチル化酵素Dmnt1、2のノックダウン細胞を作製し、次世代シーケンサーを用 いたRNA-Seq解析により、その転写、スプライシング制御に与える影響を解析する。 カイコヒストン修飾酵素の解析については、ユビキチン修飾酵素、特にDNAの組換え修復に影響を与えると考え られるH2Aユビキチン修飾酵素のクローニングと機能解析を行う。 カイコヘテロクロマチン形成機構の解析については、昨年度までにH3K27-Polycombシステムについての解析を終 了し、本年度は、HP1システムについて、ノックダウン細胞についてのRNA-Seq解析を行う。カイコゲノムにはHP 1aはHP1bに加えて、HP1cおよび相同性を示す遺伝子HP3が存在することからこれらの因子についても解析を行う 。 また、カイコは分散型動原体染色体を有しており、染色体上に多くの動原体とその形成に伴うセントロメア周辺 のヘテロクロマチン化が予想される。そのため、動原体形成が近傍遺伝子の転写に与える影響をネオセントロメ ア誘導細胞と動原体欠失細胞を用いて解析する。ネオセントロメア誘導細胞については、染色体の特定領域を認 識、結合するTAL-CENPタンパク質をデザインし、そのネオセントロメア周辺領域を重点的に、動原体欠失細胞に ついては、RNA-Seq解析を中心としたゲノムワイドな解析により行う。
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