研究課題
冬季積雪レジームの違いによる土壌凍結・融解サイクルの増幅が森林土壌の窒素無機化・硝化速度に及ぼす影響を明らかにするため、現地移動交換培養実験を実施した。観測サイトは北海道(雨龍、足寄)、東北(安比、盛岡)、関東(菅名、草木)、近畿(芦生、上賀茂)、九州(椎葉、高隅)の全10地点である。土壌カラムの上下端にイオン交換樹脂を装着したレジンコア法を用いて、冬期間の現地培養実験を行った。これまでの予備解析の結果から、冬期間に積雪が少なく低温環境下にある北海道東部の足寄サイトに全国からの土壌を移動培養することで、冬期間の正味無機化速度(アンモニウム態窒素生成速度)が有意に増加する傾向が認められた。一方で、正味硝化速度は逆に低下するという傾向が検出された。また、移動培養による窒素無機化・硝化速度の変化規模は産地土壌ごとに異なる傾向も認められた。このことは、冬季の凍結・融解環境下における土壌微生物による正味窒素生成について、アンモニウムと硝酸では変動要因がそれぞれ異なることを示唆している。そのため、次年度以降は土壌微生物活性に関係する温度・水分環境や基質となる有機物の性質についての分析を進め、冬季積雪環境変化に対する窒素無機化・硝化の応答を生じているメカニズムや地点間差を引き起こす要因の解明を進める。さらに、積雪環境下におけるリター分解や細根生産・枯死、植生の養分吸収応答、菌食動物・病原菌の動態、シカ食害の影響等に関して各サイトで進めている野外計測や操作実験をそれぞれ実施し、最終年度に向けて成果の取りまとめや、個別研究と全体研究との関係性についての議論を進めた。また、2012年3月には第5回東アジア生態学連合(EAFES)においてシンポジウムを主催し、本研究の最新成果を発表すると同時に、国内外の研究者と情報交換や議論を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた現地培養実験や各個別研究は予定通りに進行している。特に現地培養実験ついては積雪・融解レジーム変化に対する土壌窒素無機化・硝化速度の応答について、全国的な傾向が検出される一方で、当初から想定していたように産地土壌による影響程度の違いも検出された。また、テーマごとの個別研究については、それぞれの進捗は認められているので、全体目的や全体仮説への関連付けを進める必要がある。
現地培養実験ならびに個別研究の成果を学術論文として出版し、それぞれの研究で得られた知見を統合化して全体目的や全体仮説に対するアウトプットを取りまとめる予定である。また、その過程で生じた新たな疑問や仮説を整理し、さらなる研究の発展に貢献できるような取りまとめを行う。そのため、サイト視察を含んだワークショップを開催し、現時点での到達点や具体的な作業スケジュールを確認するとともに、各研究で得られた考察や推察部分を補強するための追加実験や室内操作実験の可能性やプランについても議論する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (8件)
Journal of Forest Research
巻: 16 ページ: 405-413
DOI:10.1007/s10310-011-0271-8
Agricultural andForest Meteorology
巻: 151 ページ: 854-863
DOI:10.1016/j.agrformet.2011.02.003
巻: 16(5) ページ: 374-385
DOI:10.1007/s10310-011-0288-z
巻: 16(5) ページ: 414-423
DOI:10.1007/s10310-011-0272-7
巻: 16 ページ: 363-373
10.1007/s10310-011-0287-0
Jan J For Environ
巻: 53 ページ: 61-71
巻: 16 ページ: 394-404
10.1007/s10310-011-0286-1
Soil Science and Plant Nutrition
巻: 57 ページ: 710-718
10.1080/00380768.2011.608169