研究課題/領域番号 |
22248024
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
窪寺 恒己 独立行政法人国立科学博物館, 標本資料センター, コレクションディレクター (80170041)
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キーワード | 大型頭足類 / マッコウクジラ / 深海撮影システム / バイオ・ロガー / 行動解析 / 共進化 / スカベンジャー群集 / 餌選択性 |
研究概要 |
大型頭足類チーム:2台の超小型深海HDカメラ、および2台の小型深海HDカメラを使って、6月に知床半島羅臼沖で漁船を4日間傭船し、水深600~800mの中深層で調査を行った。また、10月25日~11月6日に小笠原父島に赴き、漁船を傭船し新規開発のカメラシステム2台と既存のシステム4台を用いて、水深600mから900mの中深層で調査を行った。延べ50時間のビデオ映像が撮影され、羅臼沖ではカタドスイカやタコイカと査定されるイカ類の遊泳行動が初めて撮影され、小笠原海域ではアカイカ、トビイカ、ヒロビレイカ、端脚類など動物プランクトンが撮影された。 マッコウクジラチーム:潜水行動調査を6月と9・10月に小笠原諸島父島周辺海域で実施した。漁船を傭船し既存の静止画カメラロガーと行動記録ロガー(3D加速度計)を、新たに開発したロング・ポール式取り付け装置を用いて、マッコウクジラの頭部付近に取り付けることを試みた。3頭に静止画カメラロガー、4頭に行動記録ロガーの取り付けに成功し、計4700枚の静止画および計31.6時間の3D加速度データが得られた。マッコウクジラが他個体と近接して潜降する行動が撮影された。また、今まで記録の得られていない若いマッコウクジラから3D加速度データを得ることができた。 駿河湾スカベンジャーチーム:深海カメラシステムを取り付けた櫓に誘引物質となる餌(サンマ・スルメイカ等)を付けて海底に下し、蝟集する動物の撮影を計8日間で14回行った。また、サンマ抽出物を添加したゼラチンを用いて蝟集試験を行った結果、生餌を用いた場合とほぼ同様の蝟集効果があった。誘引物質と蝟集される生物の関係の特定を行う実験的基礎が築かれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度開発した超小型深海HDカメラと赤・白LEDライトを野外で運用した結果、既存のHDカメラとほぼ同じ性能が認められた。この超小型カメラにより、深海環境を大きく乱すことなく、さらに自然な行動生態が記録されることが期待される。また、本年度前半にはマッコウクジラ頭部装着型超小型カメラが完成し、昨年度に用いたロング・ポール式取り付け装置を用いて、本年度は実際にマッコウクジラの頭部に動画カメラを取り付けることを試みる。マッコウクジラが潜水中に遭遇し、追尾する大型イカ類との捕食・被食行動の動画がえられるものと期待される。腐肉食性動物の誘引物質に関してはサンマ抽出物の効果が認められ、抽出物の化学組成などの分析により、人工的な誘引物質合成の可能性が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はマッコウクジラの雌と子供が群れる小笠原周辺を調査海域として進めてきた。昨年度、マッコウクジラの雄が出現することの知られている根室海峡、羅臼沖で深海カメラによる予備的調査を行った。その結果、羅臼沖の中層域に大型のカタドスイカやタコイカが活発に遊泳していることが確かめられた。これらイカ類の存在は地元漁民の間でもまったく知られていなかった。羅臼沖においても小笠原海域と同様に、マッコウクジラと中深層性イカ類の間で、捕食・被食の関係が結ばれていると考えられる。小笠原海域では雌と若体の行動生態とヒロビレイカやダイオウイカといった超大型イカ類との関係が明らかにされつつある。採択年度中に着手は難しいが、今後、羅臼沖において雄と中深層性イカ類との共進化的行動生態を明らかにすることが必要と考えている
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