我々が同定した無動行動を制御する遺伝子Usp46を中心として、マウスの行動障害に関わる分子メカニズムを遺伝及び遺伝と環境との相互作用の面から分析し、ヒト精神疾患の発症原因の究明、予防・治療法の開発、創薬に向けた基礎的知見を得ることを目指した。その結果、以下の成果を得た。 (1)Usp46の作用メカニズムの解明:Usp46の変異によりGABA系の異常が起こり、無動行動に異常が起きることを明らかにした。さらに、GABAA受容体サブユニットの幾つかに量的異常が見られることを示した。 (2)組織学的研究:プロモータートラップ法により作製されたUsp46ノックアウトマウスを用いて発現細胞を調べ、海馬、嗅球,小脳など広範囲にUsp46が発現していることが分かった。 (3)行動学的研究:Usp46変異マウスを用いて様々な行動実験を行い、アルコールやシュクロース嗜好性、新規物体認識,学習行動など広範な行動表現型に異常を示すことが分かった。 (4)児童虐待としてのモデルマウスの検討 Usp46変異マウスの離乳率が低いことから、養育活動を調べたところ、養育行動に障害が認められた。そこで、里親交換実験を行い、成長後の養育活動がどのような影響を受けるかを検討した。その結果、Usp46変異を持つマウスでも、正常マウスに育てられた場合には正常な養育活動が発現することが分かった。また、母子分離や単飼ストレスにより育児放棄や仔に対する攻撃が増加することが分かった。これらの結果から、Usp46変異マウスはヒトの児童虐待のモデルマウスとしての可能性が示された。
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