研究課題/領域番号 |
22248042
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
重岡 成 近畿大学, 農学部, 教授 (80140341)
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研究分担者 |
吉村 和也 中部大学, 応用生物学部, 准教授 (90379561)
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キーワード | レドックス / 酸化的シグナル / 環境ストレス応答 / 活性酸素 / Nudix hydrolase / ヌクレオシド-2リン酸 |
研究概要 |
細胞内における酸化還元(レドックス)状態(バランス)は、環境ストレス応答・防御を含む様々な生理機能の発現に深く関わっている。そこで、「植物のレドックス制御による環境ストレス応答の分子機構」 を統合的に理解することを目指して、(1)葉緑体ROSを介した酸化的シグナリングの分子機構、(2)ヌクレオシド2-リン酸代謝による細胞内レドックス制御機構について解析した。 (1)チラコイド膜結合型アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(tAPX)の誘導抑制系を用いた解析により同定した葉緑体由来のH_2O_2に応答する遺伝子群の遺伝子破壊株ラインから、パラコート処理による酸化的ストレス感受性変異株(PSS)を複数選抜した。そこで、それらの原因遺伝子(PSS)の種々のストレスに対する発現解析や変異体の感受性試験を行った。その結果、PSS7の発現はサリチル酸(SA)およびエリシター処理によって抑制された。一方、PSS4はエリシター処理によってのみ発現誘導された。また、PSS4およびPSS7は共にエリシター処理に高感受性を示した。これらの結果から、葉緑体由来のH_2O_2由来のシグナルは酸化的ストレス応答だけでなく、病原菌応答にも関与していることが示唆された。 (2)葉緑体内でNADPH加水分解に機能するシロイヌナズナNudix hydrolase (AtNUDX19)の生理的役割を解明するために、遺伝子破壊株(KO-nudx19)を用いて解析を行った。その結果、KO-nudx19株ではSA合成に関与する遺伝子群やサリチル酸(SA)応答性遺伝子群の発現およびSAレベルが野生株よりも有意に増加していること、KO-nudx19株はSA高感受性を示すこと、SA処理下においてAtNUDX19の発現レベルが増加することを明らかにした。以上より、AtNUDX19はSAシグナリングのネガティブレギュレーターとして機能することが示唆された。また、原核生物由来のシグナル分子として知られているppGppに対して加水分解を有するAtNUDX11,15,25および26の種々の環境ストレス下での発現解析を行った。その結果、乾燥条件下においてAtNUDX26およびppGpp合成分解酵素群の発現誘導が確認された。したがって、AtNUDX26は乾燥下における葉緑体内ppGppレベルの制御に機能していると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、独自のスクリーニング系で同定した、葉緑体ROSを介した酸化的シグナリングに関与する複数の因子、および多様なヌクレオシド2-リン酸類縁体の代謝制御に関与する複数の酵素(Nudix hydrolase>の生理的役割について並行して解析しているが、それらの機能は互いに関連/連携しているため、一方で得られた知見や実験手法を他方に活かすことで、すべての研究が相乗的に進展している。事実、本研究により得られた成果により多数の学会発表を行い、複数の査読付き雑誌に掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、当初の計画通り植物のレドックス制御による環境ストレス応答の分子機構の一端、すなわち本機構に関わる制御因子や代謝系の生理的役割を明らかに出来てきている。さらに、残り2年間での研究に向けた実験材料(遺伝子破壊株の単離、相互作用因子の同定、実験手法の確立など)の準備も進んでいる。 したがって、今後も当初の計画に従って研究を進めていくことで、全容解明に向けた研究の進捗が期待できると確信している。
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