研究課題
細胞内における酸化還元(レドックス)状態(バランス)は、環境ストレス応答・防御を含む様々な生理機能の発現に深く関わっている。そこで、「植物のレドックス制御による環境ストレス応答の分子機構」を統合的に理解することを目指して、(1)葉緑体ROSを介した酸化的シグナリングの分子機構、(2)ヌクレオシド2-リン酸代謝による細胞内レドックス制御機構について解析した。(1)チラコイド膜結合型APX(tAPX)の誘導抑制系を用いたマイクロアレイ解析により同定した、葉緑体由来のH2O2に特異的に応答する候補遺伝子群の破壊株から、11ラインの光酸化的ストレス感受性(pss)および9ラインの非感受性(psi)変異株が得られた。それらの原因遺伝子のうち、PSS8はフェニルプロパノイド経路に関与するフェルラ酸5-ヒドロキシラーゼ(FAH1)をコードしており、遺伝子破壊株の解析から、FAH1はアントシアニン生合成の発現に必須であることが示された。また、PSI2はグルタミン酸脱炭酸酵素をコードしており、γ-アミノ酪酸代謝と酸化的ストレス応答の関連が示唆された。一方、11のPSS/PSI遺伝子は転写因子をコードしており、酸化的シグナリングへの関与が示唆された。(2)葉緑体NADPH加水分解酵素、Nudix hydrolase(AtNUDX19)によるNADPHステータス制御と耐病性ホルモンであるサリチル酸(SA)応答との関連を解析した。その結果、KO-nudx19株ではSA処理による病原菌感染応答関連遺伝子の発現上昇が亢進していたことから、AtNUDX19はSA応答のネガティブレギュレーターであることが示唆された。一方、AtNUDX23の過剰発現株および発現抑制株を用いた解析から、本酵素は葉緑体内のFADの代謝制御を介してリボフラビン生合成系のフィードバック調節に関与することが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、葉緑体ROSを介した酸化的シグナリングに関与する複数の因子、およびヌクレオシド2-リン酸類縁体の代謝制御に関与するNudix hydrolaseの生理的役割について並行して解析しているが、それらの多くは植物の環境ストレス応答の制御に関わっているため、互いに関連/連携している。したがって、一方で得られた知見や実験手法を他方に活かすことで、すべての研究が相乗的に進展している。これらの成果は、ほぼ当初の計画通りであり、事実、本研究により得られた成果により多数の学会発表を行い、複数の査読付き雑誌に掲載されている。
これまでの研究により、当初の計画通り植物のレドックス制御による環境ストレス応答の分子機構の一端、すなわち本機構に関わる制御因子や代謝系の生理的役割を明らかに出来てきている。さらに、残り1年間での研究に向けた実験材料(遺伝子破壊株の単離、相互作用因子の同定、実験手法の確立など)の準備も進んでいる。したがって、今後も当初の計画に従って研究を進めていくことで、全容解明に向けた研究の進捗が期待できると確信している。
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (30件) (うち招待講演 1件)
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