研究課題
生体は多様なストレスを受容し、生存に不可欠な種々の反応を非意識下に視床下部を中心とした「生存脳の指令センター」を介して、ストレスに対抗する生体の危機管理(ホメオサーベイランス)を行っている。その際、自律神経系や神経内分泌系を出力系とし、免疫、代謝系などの全身組織を総動員していると考えられるが、その伝達の仕組みは不詳である。本研究では、(1)ストレスをセンシングして「生存脳の指令センター」へインプットし、自律神経系や神経内分泌系などの出力系へ伝達するメカニズム、(2)「生存脳」から免疫系や代謝系へシグナルをアウトプットし、骨格、免疫系を含む全身組織を総動員するメカニズムの解明を目的とした。平成22年度には、酸化ストレスの感受性に、シグナル伝達の鍵をにぎる転写因子ATF4、Nrf2、NZF1による転写レベルでの遺伝子発現制御の分子機序を明らかにし、インプットへの関与を示した。また、バゾプレッシン-eGFPトランスジェニックラットを用いてバゾプレッシンが後根神経節細胞で産生されていること、バゾプレッシンV1a受容体を介して痛覚等の感覚受容および脊髄への伝達に関与していることが示唆された。一方、アウトプットについては、神経伝達物質であるドパミンが、樹状細胞とナイーブT細胞の相互作用の際に免疫伝達物質として機能し、ヒトTh17細胞の初期分化に重要な役割を担うことを明らかにした。また、力学的ストレスの増減により、骨芽細胞や血管内皮細胞が連動して増減すること、VEGF-AやTie-2などの血管関連因子の発現の局在が変化していることが明らかとなった。以上、身体的ストレスの入力系、自律神経系や神経内分泌系などの出力系、免疫系や代謝系などの応答系に至るまで、ストレスセンシングからホメオサーベイランスへ至るまで全身的制御システムを各々の系で関連付ける結果が得られた。
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