研究概要 |
遺伝性疾患を持つ患者の皮膚線維芽細胞より誘導したiPS細胞(疾患特異的iPS細胞)は、患部を含むすべての組織に分化可能なことから、その疾患の病態解析や創薬、治療法開発に極めて有用であると考えられる。 本研究では、疾患関連iPS細胞の標準化と、適切な細胞の分化系を構築するとともに各種遺伝性疾患のiPS細胞を用いた病態解析を行い、今まで知られていなかった新たな知見を得ることを目的として行われた。 本年度、様々な遺伝性疾患:血液疾患(Fanconi Anemia、Kostmann syndrome)、先天性免疫不全症(Reticular dysgenesis)、自己炎症症候群(CINCA syndrome,Nakajyo-Nishimura syndrome)、筋疾患(Duchenne muscular dystrophy)、神経疾患(Spinal muscular atrophy,Severe myoclonic epilepsy in infancy)などの患者から皮膚生検を行い、培養して線維芽細胞株を樹立し、ストックを作成した。この細胞にレトロウイルスベクターを用いてOct3/4,Sox2,Klf4,(c-Myc)遺伝子を導入しiPS細胞の樹立を試みている。既にKostmann syndrome、CINCA syndrome、Nakajyo-Nishimura syndrome、Duchenne muscular dystrophy患者からはiPS細胞が樹立され解析が始まっている。一方、Fanconi Anemia、Reticular dysgenesis患者からは通常の方法ではiPS細胞が樹立できなかった。センダイウイルスベクター、エピゾーマルベクターを用いた方法も試みているが今のところ成功していない。今後、一過性に遺伝子を修復してその細胞を用いたiPS細胞の樹立を試みる予定である。 既に樹立されたiPS細胞の解析を行うため、様々な細胞系列への分化系を構築した。血球系においては1次造血と2次造血ともiPS細胞から出現し、そのパターンはES細胞ときわめて類似したものであり、in vivoにおける発生過程を反映すると共に機能的に正常な能力を持った血球として赤血球、好中球、巨核球、単球・マクロファージ、マスト細胞等様々な細胞に分化できることが確認された。 体細胞モザイクでCIAS1遺伝子異常を持つCINCA syndromeの患者からwild typeとmutant typeの両方のiPS細胞が樹立され、両者から分化させた単球・マクロファージの機能の違いの解析が始まっている。その他の疾患のiPS細胞についても解析が始められた。研究はほぼ予定通り進行している。
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