完全人工心臓は、心臓を置換するタイプの人工心臓であり、究極の心臓代替デバイスとして大きな期待がよせられている。小型高性能な体内埋込式完全人工心臓を開発するためには、デバイス、病態生理および制御系に関する基礎研究が必要である。また、生体適合性の向上も重要な課題であり、特に抗血栓性に関しては、抗凝固療法を必要としない要素技術の開発が必須である。今年度は、昨年度開発した動圧力を高めた動圧軸受けを内蔵した螺旋流完全人工心臓に、サッキング制御性能を高めたプログラムを適応して、動物実験を継続した。その結果、最長100日の生存を達成した。実験終了後のデバイスを解析した結果、右心のポンプ性能が良すぎることにより右心インペラーの回転数が低すぎて動圧軸受けが安定しないという問題があることが分かった。そこで、右心ポンプのインペラーの羽根の小型化を行い、より高回転で同じ性能が得られるように改良した。改良した螺旋流完全人工心臓は、今後ヤギに埋め込んで長期慢性実験を行う予定である。計測制御では、昨年度に引き続き、絶対圧センサーユニットを左右血液ポンプのインフロー部分に内蔵し、動物実験に使用してデータの収集を行った。体内に埋め込んだ圧センサーは校正が困難であるため、校正を必要としない方法として、センサー出力波形から心房圧を推定するロジックの開発を行った。流量の計測に関しては、昨年度に引き続き、モーターの回転数とトルクからテーブル方式により差圧と流量を推定する方法の基礎研究を行った。抗血栓性向上のためにハイブリッドパーツを開発しているが、今年度は心材の剛性を高めたスカッフォールドによるハイブリッドカニューレを作成し、左心バイパスによる慢性動物実験を行った結果、53日目に摘出したカニューレは心臓と癒合し上皮化も良好であった。
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