悪性グリオーマの強い浸潤能と悪性度を規定する分子シグナルを同定し、それらに基づく新たな治療戦略を構築することを目的として研究を行った。 具体的には: (1)悪性グリオーマ細胞は主に血管及び神経線維に沿って浸潤していることから、まずその両浸潤パターンがsemi in vivoで評価できるアッセイ系を確立した。さらに、そのアッセイを用いて腫瘍形成過程における浸潤の経時的解析を行った。その結果、悪性グリオーマ細胞の正常脳への浸潤が腫瘍塊形成に先行して始まり、複数の形態を呈しながら増悪することを見出した。さらに、神経線維に沿った浸潤では脳梁に向かう遊走が一番多く、一方、血管に沿った遊走では方向転換が繰り返されていることが明らかになった。 (2)同じ癌遺伝子によって形質転換をさせた神経幹細胞の中から腫瘍形成能が異なるクローンを複数樹立し、腫瘍形成能を規定する分子シグナル及び悪性度と浸潤能の相関について解析を開始した。マイクロアレイの結果より、腫瘍形成能を持つクローンで血管新生、浸潤に関連する複数の遺伝子が正常神経幹細胞より有意に高く発現していることが明らかになった。クローン間で発現が異なる遺伝子の同定は現在進行中である。 (3)マウスモデルにおいて腫瘍細胞を野生型マウスの脳に移植した際、早い時期からホスト側のCD45陽性細胞やマイクログリアを含む反応性細胞の集積がみられ、その集積が腫瘍塊形成を境に消退することを見出した。今後、免疫不全マウスと野生型マウスにおける腫瘍形成過程・治療反応性について比較を行い、解析を進める予定である。
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