研究課題/領域番号 |
22249055
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐谷 秀行 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (80264282)
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研究分担者 |
サンペトラ オルテア 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (50571113)
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キーワード | 細胞・組織 / 癌 / 発生・分化 / 遺伝子 / バイオテクノロジー |
研究概要 |
グリオブラストーマ細胞が正常脳に浸潤するメカニズムの解明、及びその高い浸潤能を克服する治療法の確立を目的として研究を行った。 前年度はマウスモデルを用いて、腫瘍細胞の浸潤が腫瘍形成の初期より(1)血管に沿った浸潤と(2)神経線維に沿った浸潤に分かれることが明らかにした。さらに、その両パターンを解析するアッセイ系を確立した。本年度は浸潤パターン別の詳細解析を行った。具体的に: (1)血管に沿った浸潤に関し、まず培養脳切片のビデオ観察を用いて検証した。その結果、血管に到達しない正常神経幹細胞と異なり、腫瘍細胞は高い確率で近くの血管に向かって遊走し、到達した血管を浸潤路として利用することを明らかにした。また、腫瘍細胞は血管内皮細胞の安定性を低下させ、浸潤しながら血管を再構築する現象をリアルタイムで撮影することに成功した。そして、この二つの現象をin vitroで再現するアッセイ系を確立し、現在それぞれの規定因子の解析を進めている。腫瘍細胞と血管内皮細胞の相互作用を解明することによって、抗浸潤療法だけでなく、グリオブラストーマ治療において大きな課題となっている血管新生の制御も可能になると期待される。 (2)神経線維に沿った浸潤のビデオ解析から、グリオブラストーマの細胞がシングル・セルとして遊走する場合と集団として遊走する場合があることを見出した。腫瘍細胞が同じ浸潤路を利用した場合でも二つの浸潤様式を呈することに着目し、各々の場合での腫瘍細胞側の性質を検証した。その結果、シングル・セルとして遊走できる細胞は間葉系の性質が強く、上皮間葉転換阻害剤がその浸潤能を抑制することを証明した。その浸潤抑制効果はin vitroだけでなく、培養脳切片を用いたsemi in vivoのアッセイ系でも確認された。現在、最大の効果が得られる薬剤の選定を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vivoでの細胞浸潤をよく反映する脳切片培養システムを用いることによって、複数の浸潤パターンが同定でき、さらに、浸潤を制圧するには複数の標的を考慮する必要があることを明らかにした。 腫瘍細胞の高い浸潤能の一つの規定因子である間葉系性質については計画通り、標的薬剤のスクリーニングを開始している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)血管に沿った浸潤及び神経線維に沿った集団浸潤については引き続きsemi in vivoのアッセイ系を用いた検証を行い、それぞれの分子基盤の解明を目指す。 (2)腫瘍細胞の間葉系性質に起因している遊走能についてはまず現在行っている薬剤スクリーニングでリード化合物の選定を行う。次に、得られたリード化合物の改良を行い、より低濃度で活性を持ち、細胞毒性の少ない化合物を取得する。最適化された化合物をグリオブラストーマのモデルマウスに投与し、効果ならびに副作用の評価を実施する。さらに、複数の殺細胞効果のある抗癌剤との組み合わせを試し、化学療法のプロトコールを確立することによってヒトでの臨床試験の準備を整える。
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