グリオブラストーマ細胞が正常脳に浸潤するメカニズムの解明、及びその高い浸潤能・治療抵抗性を克服するための戦略の確立を目的として研究を行った。 前年度はマウスモデルを用いて、腫瘍細胞の血管に沿った浸潤と神経線維に沿った浸潤のメカニズムが異なるものであり、それぞれを抗浸潤療法の標的にする必要があることを明らかにした。さらに、腫瘍細胞の遊走能を低下させるには上皮間葉転換阻害剤が有効であることを見出し、その候補薬剤を同定した。 本年度は血管に沿った浸潤の解析及び再発の原因であるといわれている腫瘍幹細胞の治療抵抗性メカニズムの解析を中心に行った。 具体的には、GBMマウスからの培養脳切片を用いて、はじめて生の脳での血管内皮細胞の選択的なラベリングに成功した。そして、腫瘍細胞が浸潤する様子をタイムラプス顕微鏡で追跡した結果、シングル・セルとして遊走できる腫瘍細胞が血管に沿って移動するだけではなく、血管内皮細胞を既存の血管から引き込み、浸潤複合体を形成し、遊走を続ける現象を記録した。さらに腫瘍細胞・血管内皮細胞からなる浸潤複合体をin vitroの3次元培養で再現することに成功し、複合体形成時の構成細胞の分子解析により、その形成を引き起こす主要な規定因子を同定した。 また、本年度は治療範囲外(正常脳)に浸潤した細胞だけではなく、治療範囲内(腫瘍塊)に存在し、強い治療抵抗性を示す腫瘍幹細胞にも注目し、放射線療法中の変化を検証した。その結果、反復した照射によって腫瘍幹細胞が段階的に性質を変え、放射線に対し新規抵抗性を獲得することを証明した。そして、その分子メカニズムがIGF1シグナル伝達経路によって制御されており、IGF1経路の阻害が放射線治療の効果を増強させることを見出し、論文を発表した。
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