研究課題/領域番号 |
22251001
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
西山 要一 奈良大学, 文学部, 教授 (00090936)
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研究分担者 |
酒井 龍一 奈良大学, 文学部, 教授 (00153859)
栗田 美由紀 奈良大学, 文学部, 助教 (00309527)
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キーワード | 壁画地下墓 / 保存修復 / 保存環境 / レバノン / ローマ時代 / フェニキア |
研究概要 |
レバノン共和国ブルジュ・アル・シャマリT.01遺跡の壁画地下墓T.01-Iの保存修復は2年目を迎えた。四壁と天井に孔雀と食用の鳥・魚・肉塊・パン・ワイン壺・オリーブ壺、墓主リューシスの肖像と碑文、草花など壁画が描かれているが、壁画損傷状況の把握、岩盤の樹脂含浸補強、壁画損傷部のモルタル補強と剥落防止、壁画のクリーニングを実施し、保存・修復処置のおよそ30パーセントを終えた。 クリーニングにより南壁のギリシャ語碑文"さらばリューシス誰だって死ぬのだから"の下方の壁画がリューシスの肖像である、赤外線写真によって孔雀が草の茎を踏みつけている、食用の逆さ吊りの鳥の口からは血が滴り落ちている、などを明らかにした。地下墓壁画の保存環境調査は、データロガによる墓室内外の温湿度、大気汚染のほか現地調査時の照度・紫外線強度・二酸化炭素濃度を測定し、壁画保存の適正環境策定のデータを収集した。また、調査地区を南に1m×8mの拡張し、既知の地下墓(T.01-I)に隣接して地下墓(T.01-II)を発見した。本年のT.01-II地下墓調査は階段下部と墓室入口のみであり、その全容は詳らかではないが、階段や入口の造りや、T.01-I地下墓階段右壁がTD1」1の墓室奥壁の一部を破壊して造っていることからTO1-1(ティール暦322年=西暦196/197年の築造)に先行することがわかる。またT.01-IIの階段下部発見のアンフォラ底部破片は、T.01-Iの壁画のアンフォラより古形であることからも首肯できる。' T.01-IIの全容は次年度明らかにする。T.01-Iは美しい壁画が描かれ、墓室の横長プラン、床の掘込石棺など、近隣の地下墓形態とは異にするところが多く、古代ローマ都市ティールの中心とその周辺にあたるT.01遺跡の所在するブルジュ・アル・シャマリ、すなわちフェニキアの文化をより強く残す地区との比較によって古代レバノンの実相に迫りたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
T.01-I壁画地下墓の壁画のクリーニングと保存、岩盤の補強、壁画保存環境測定などは、ほぼ予定通りに進んでいるものの、調査中(2011年9月9日~28日)にあった季節外れの思いがけない大雨で、地表部の測量などが実施できなかった。また、調査拡張部から新たに発見された地下墓T.01-IIの調査は、当初予定していなかったことであり、これに労力を注いだ結果、当初計画にやや遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
T01-I地下墓の破損部の修復、壁画の保存修復、保存環境策定の研究など当初の全体計画にはやや遅れが生じているが、残る2年でこの遅れも解消できる見込みである。また、新発見の地下墓の全容は明らかではないが、次年度には調査を完了したい。ただし、保存環境確保のための地下墓上地表部を断熱シートや砕石・土で覆い地下墓内の温湿度を安定させる試みは成功していない。さらに、地下墓内に生じるカビの中に汚水が原因と思われるものがあり、覆屋の建設や地下水の動向の調査と対策、などの追加施策も、今後、計画したい。
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