研究課題/領域番号 |
22251001
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
西山 要一 奈良大学, 文学部, 教授 (00090936)
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研究分担者 |
酒井 龍一 奈良大学, 文学部, 教授 (00153859)
栗田 美由紀 奈良大学, 文学部, 助教 (00309527)
魚島 純一 奈良大学, 文学部, 准教授 (10372228)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 壁画地下墓 / レバノン共和国 / 保存修復 / 保存環境 / 成分分析 |
研究概要 |
2012年度はレバノン南部ティール市の本調査利用のホテル・レストランの爆破事件、調査地ブルジュ・アリ・シャマリ地区への沿道爆破事件等があり、やむを得ず現地調査・修復を延期した。これに代わって、イタリア、エジプトの壁画保存の現状と修復の調査を行い、2011年度までの調査と修復の成果研究会を開催するとともに、レバノン考古総局の承認を得て持ち帰ったガラス・壁画片・モザイク片等の資料の機器分析および写真・図の整理等奈良大学で実施可能な研究を行った。 イタリアおよびエジプトにおける調査ではレバノン壁画地下墓と同時代の地下墓・壁画・出土遺物について遺跡・博物館を訪ね調査した。両国に於いて発掘調査後の壁画の適正な保存環境の保持は困難を極め、空調による完全環境管理を行うか、1800年間保持してきた自然環境下に戻すかの選択に迫られている。また、壁画の強化・修復についても従前のように全面的に合成樹脂で行うことはかえって壁画の損傷を招く恐れがあるために、最小限度の保存処理・修復に止めていることは、本研究の壁画保存の基本理念・判断と合致している。 研究会は日本側調査参加メンバー10名とイタリア壁画修復家が参加し、ブルジュ・アル・シャマリT.01遺跡ならびにT.01-I壁画地下墓、H2堀込石棺の遺構・遺物について各メンバーの専門的立場から検討を加え議論を行った。その結果、T.01-I壁画地下墓は紀元196・197年にリューシスなる人物のために築造され、紀元4世紀まで墓地として使用され続けられたこと、近隣の地下墓墓室が正方形プランであるのとは違い横長プランであることにこの地の特異性が見られること、地上のH2堀込石棺墓のGod-Panマスクと260個におよぶ出土遺物からは地下墓被葬者に従属する牧羊を営む人物が埋葬され、ローマ時代におけるこの地の社会構造が推測されることなどを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(理由)北アフリカ・チュニジアに始まった政治革命、いわゆるアラブの春の余波が西アジアにもおよび、レバノン共和国の隣国シリアが内戦状態にある。本研究のフィールドであるレバノン南部はシリアの影響力の大きい地域であり、かつ南に接するイスラエルとも国境を挟んで対峙し不安定な政治状況にある。ティール市およびその近郊でも、2011~2012年に、国連軍兵士が宿泊し、かつ、本研究メンバーが利用するホテル・レストラン・ファーストフード店の爆破事件が発生、また、国連軍警戒巡回路かつ本調査でも毎日往還する道路上において爆破事件が発生した。幸いにもレバノン現地における調査の時期ではなかったが、本研究にとって身近な施設での事件であった。これらの事件に鑑み2012年度のレバノン現地調査・修復を延期することとした。 したがって、現地での調査・研究の項目である、壁画のクリーニングと強化、地下墓墓室岩盤の強化、現地作業中の温度・湿度・紫外線強度・大気汚染濃度などの環境測定、T.01-II地下墓の発掘調査、出土遺物の写真撮影、実測図作成などが未実行となった。 それに代えて、イタリアおよびエジプトのローマ時代地下墓の構造、遺物、壁画の保存などレバノン・ティールの壁画地下墓との共通点と相違点を新たなに確認する成果を得た。また、遺物の科学分析、図・写真整理は奈良大学において進めた。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度は現地調査・修復を中止したため、本研究の最終年度である2013年度は綿密な計画のもと研究を実行する必要がある。レバノン共和国考古総局・在ベイルート日本大使館・在東京レバノン共和国大使館・日本政府外務省アジア・アフリカ局などと緊密に連絡をとり、安全を確認した上で現地に赴き研究を完了したい。研究対象であるレバノン共和国ティール市近郊のブルジュ・アル・シャマリT.01-I壁画地下墓の修復およびT.01遺跡の地表部調査、出土遺物の写真撮影・作図等の記録、環境測定などは、本年度予定の1か月間で完了の見込みであるが、2011年度に新たに発見したT.01-II地下墓の調査はおよそ5分の1の進捗状況であり、2013年度で以て中断せざるを得ない可能性が高く、その際には、レバノン考古総局との詳細な説明と綿密な調整が必要となる。
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