研究課題/領域番号 |
22251009
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
常木 晃 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70192648)
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研究分担者 |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40392550)
久田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50156585)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 西アジア / 新石器時代 / 社会の複雑化 / 都市化 / ザグロス南部 |
研究概要 |
昨年度に引き続き、平成24年度も南イラン・ザグロス南部アルサンジャン地区に所在する旧石器時代~銅石器時代遺跡の調査を実施しました。アルサンジャン地区では洞窟や岩陰遺跡が144カ所、オープン・エア・サイトが21カ所、タッペ型遺跡が31カ所確認されていましたが、平成24年度夏季の踏査において、本研究にとり重要な大型のタッペ型遺跡が、アルサンジャン南部の巨大な塩湖タシュク湖の西側で新たに発見されました。この遺跡はタル・イ・ボゾルグ・カフェルと呼ばれており、特に当地域の銅石器時代に特徴的なラピュイ土器が数多く表採され、新石器時代終末から銅石器時代に発展した大型の集落と想定されます。このほか周辺には小型の土器新石器時代のタッペ型遺跡や中規模の銅石器時代のタッペ型遺跡も分布しており、地域の集落間の関係や、農耕村落が大型集落に発展していく歴史過程の研究に資すると考えられます。 また、アルサンジャン市の南東に所在する大型の洞窟遺跡であるタンゲ・シカン洞窟では、中期旧石器時代から原新石器時代にかけての連続的な文化層を発掘調査しています。この発掘調査は平成23年度から開始されましたが、平成24年夏季には、洞窟新奥部のB3区を発掘しています。中期旧石器時代に希少な遺構が検出され多量の石器・動物骨などが出土するとともに、後期旧石器時代から原新石器時代にかけての文化層も詳しく調査され、南ザグロスの新石器化を考察するための多くの新資料を得ています。発掘調査で得られた資料に基づき、動物相の復元や、年代測定、種子の種類の同定なども実地しています。これらの研究成果は、イランや日本で行われた国際会議や学会で発表しています。 平成22年度までに実施してきたシリアのテル・エル・ケルク遺跡発掘成果に基づく新石器時代社会の複雑化の研究も継続し、その成果についてポーランドなどで開催の国際学会で発表しています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリア内戦の影響により、平成23年度より主調査地をシリアからイランに変更せざるを得なかったことは、研究の深化に少なからず影響を与えました。ただし新たな調査地である南ザグロス地域のアルサンジャン地区において、同様な視点から先史時代遺跡調査を進行させることができており、新石器化および都市化に関わる歴史過程を考古学的に実証していこうとする本研究の主目的については、おおむね順調に進展していると考えます。特に、アルサンジャン地区では新石器時代直後の銅石器時代に巨大な集落がタッペ(テル)型遺跡として形成されており、そうした遺跡の発展過程の調査研究を進めることは、都市化の研究を新たなステージに導くものと期待しています。なお、これらの大型タッペの集落構造の調査研究には、全面的な発掘調査をこれから2年間で実施することは不可能なため、磁気探査やレーダー探査など、リモートセンシングを用いた地下探査技術を積極的に用いようと考えています。 当初の主調査地である北西シリア、エル・ルージュ盆地所在テル・エル・ケルク遺跡の発掘調査の成果については整理研究を継続しており、集落が新石器時代に大型化した背景や大型化の実際(集落面積の検証など)についての研究論文を平成24年度に発表することができました。また、そこに生きた人々の社会や精神生活を考察するための、テル・エル・ケルク遺跡で発見された新石器時代墓地の整理研究も進展しており、論文出版や国際学会での発表を行っています。
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今後の研究の推進方策 |
イラン南部アルサンジャン地区での考古学的調査に関しては、原新石器時代に牧畜を中心とする新石器化が洞窟・岩陰遺跡を居住地として進展し、土器新石器時代に農耕を加えた真の新石器化が進んで小型のタッペ型遺跡が形成され、新石器時代直後の銅石器時代には小型の集落から大型のタッペ型集落へと展開する歴史過程が見えてきました。この歴史過程のうちの新石器化については、すでに洞窟遺跡の発掘調査が進んでおり、その過程が可視化されつつあります。それに対して最後の都市化の問題については、残された2年間で大型の集落遺跡を発掘調査してこの問題を解明してことには、時間的にも経済的にもかなりの無理があると考えています。そのため、発掘調査は最小限にとどめ、地表からの磁気探査やレーダー探査といったリモートセンシングの手法で地下探査を実施し、大型集落の遺構配置などを復元する新たな研究手法を考えています。このような手法は、イラン文化遺産工芸観光省考古学研究所も興味を抱いており、共同で進めて行きたいと思います。 シリアでの調査成果のまとめについては、現在着実に進んでおり、平成25、26年度で本報告書の少なくとも一部の出版を目指しています。
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