研究課題/領域番号 |
22251009
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
常木 晃 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70192648)
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研究分担者 |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40392550)
久田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50156585)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 西アジア / 新石器時代 / 社会の複雑化 / 都市化 / シリア / イラン南部 / イラク・クルディスタン |
研究概要 |
本研究の計画段階で主対象に考えていたシリア北西エル・ルージュ盆地所在テル・エル・ケルク遺跡の調査研究については、平成22年冬季までは順調に進行していたものの、平成23年春から始まったシリア内戦のため、現地調査を中断せざるを得なくなっています。そのため、平成23年度から主な調査対象地を南イランのザグロス南部アルサンジャン地区に変更して、同地区にある旧石器時代~銅石器時代までの先史時代遺跡を対象に、本研究の主目的である先史時代の社会の複雑化と都市化についての現地調査を実施しています。 平成25年度のイラン・アルサンジャン地区の現地調査を4月-5月に実施し、磁気探査を含めた体系的なテル型遺跡の踏査を行い、各時期のセトゥルメント・パターンを復元していきました。またこれまでの調査で得られた出土遺物の整理研究も行っています。復元されたセトゥルメント・パターンに基づけば、旧石器時代~土器新石器時代初頭まで同地区では主に洞窟に人々が居住してきたこと、土器新石器時代の半ばごろから平地での集落形成が開始されたこと、銅石器時代には大型の集落と小型の集落という明確な集落間格差が現出していたことなどが明らかになりました。2遺跡で行った磁気探査の結果、集落全体に矩形プランの住居が密集していた土器新石器時代の集落に対し、銅石器時代になると大型集落の中心部には公共的空間が現れていることが判明しています。また、その後の青銅器時代には20haを超える超大型の中心集落が存在していることも確認できました。同現地調査の成果については、調査終了後にイラン国立博物館講堂に招かれて講演会を行ったほか、日本での調査報告会で一般向けに研究発表しています。 このほか、7月末―8月にレバノン南部、9月にイラン北東部、3月にイラク・クルディスタンにおいても、比較研究のための先史時代の集落に対する体系的踏査を実施しています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の調査地として考えていたシリア北西部エル・ルージュ盆地での調査がシリア内戦のために調査地の変更を余儀なくされてしまったことは、本研究の実施にとり様々な障害となったことは事実です。しかし幸いにも平成23年以来の主調査対象地域であるイラ ン南部アルサンジャン地区で、当初の目的に沿った現地調査を継続することができています。特に平成25年にはタペ型遺跡に対する体系的踏査を実施し、アルサンジャン地区では1)洞窟から平地住居での集落形成に移行した時期が土器新石器時代と考えられること、2)本研究の主目的である都市化に係わる可能性の高い大型集落の登場と集落間格差が同地区では新石器時代直後の銅石器時代に認められること、3)銅石器時代の大型集落ではその中心部に公共的な空間が現出していると考えられることなど、が明らかにされています。 また、1970年代に東京教育大学が実施した北東イラン・シャールード地区に所在する新石器時代遺跡であるタペ・サンギ・チャハマック遺跡の踏査を実施するとともに、1970年代の発掘調査の際に出土した膨大な出土遺物について、同遺物が収蔵されているテヘラン国立博物館において整理研究を実施しています。これは、北東イランから中央アジア方面への新石器化についての知見を深めるために実施しています。チャハマックの遺物については日本においても理化学的調査を進め、同遺跡に代表される北東イラン新石器時代の技術的先進性などが判明しています。 平成25年度にはレバノン南部やイラク・クルディスタンでも先史時代遺跡の踏査を実施することができ、様々な環境下で生じた新石器化とその後の社会の複雑化に関するデータが集積されつつあります。これらの新たな研究資料に基づいて、南メソポタミアとは異なる自然環境下でどのように社会の複雑化が進行していったのかを比較検討することが可能となりつつあります。
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今後の研究の推進方策 |
イラン南部アルサンジャン地区での現地調査については、上述のように新石器化までの社会の複雑雑化過程についての道筋は明確になってきました。また、新石器化後の集落の巨大化と複雑化の研究についても、平成25年度に実施した同地区のタペ型遺跡の体系的踏査によって、その道筋が見えてきつつあります。特に磁気探査などのリモートセンシング法の活用により、大規模な発掘調査を行わなくても集落構造を把握できる可能性を示せたことも重要な成果と考えています。アルサンジャン地区での研究成果を早急にまとめるとともに、昨年度末に試験的に実施したイラク・クルディスタンでの新石器時代調査を今後本格的に実施できれば、ザグロス山脈の南と西での社会の複雑化過程をさらに比較研究できるのではないかと考えています。 シリアでの調査に関しては、日本隊として現地に赴くことは現在のところ不可能ですので、現地での資料調査などを行っているシリア人研究者を日本に招へいして、共同研究を進めていく研究形態を模索中です。すでに若手研究者を代表者のいる大学に大学院学生として受け入れており、また平成25年度には他の研究者も3週間の短期間ですが筑波大学に招へいし、共同研究を行いました。これからもシリア人研究者の受け入れを積極的に行い、テル・エル・ケルク遺跡発掘調査の研究成果をまとめていきたいと考えます。 社会の複雑化と都市化について、新たな仮説を考古学的証拠に基づいて検証していくことが本研究の目的です。現地調査で行っているレヴァントと南イランという全く異なる環境にある新石器時代の遺跡のあり方を比較検討していくことで、さらに北メソポタミアでの遺跡調査を進めていくことで、紀元前4000年紀後半に銅石器時代の南メソポタミアで都市化が進展したというこれまでの定説とは全く異なる、新たな社会の複雑化、都市化を提唱できるように研究を進めていきます。
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