研究概要 |
1.マレー半島の5地点において、熱帯雨林に生息するアリ植物オオバギ属の共生アリを83コロニー採集した、分析の結果、標高1000m以上の地点においては、共生系の維持に必須と考えられていたカイガラムシ類の生息が全く確認できなかった。このことから、高標高地においてはオオバギと共生アリの2者のみによる共生系が構築されていることが判明した。 2.共生アリと同時に採集したオオバギ上の寄生昆虫(タマバエ、シジミチョウ、カスミカメムシ)のうち、カスミカメムシ20サンプルに関して飼育実験を行った。その結果、全ての個体がオオバギの生産する栄養体のみ摂食し、他のものを摂食しないことを確認した。この事から、オオバギ上に生息するカスミカメムシは栄養体を盗み取ることに特殊化した寄生者であることが判明した。 3.アリ・カイガラムシ・シジミチョウ・タマバエに関して、系統間の遺伝的分化が検出可能な遺伝子マーカーの検索をおこなった。アリは3つの核遺伝子領域、カイガラムシは2つの核遺伝子領域,シジミチョウは3つの核遺伝子領域および3つのミトコンドリア遺伝子領域、タマバエは1つのミトコンドリア遺伝子領域をそれぞれ選定した。 4.マレー半島とボルネオ島の13地点から採集したオオバギ共生アリ105コロニーからのサンプルを用いて、核DNAの3遺伝子領域(約1900bp)に基づく分子系統樹を作成した結果、ミトコンドリア系統樹との間で多くの不一致が認められた。核系統樹上の各単系統群は地理的分布域や寄主植物ごとにはまとまらず、寄主オオバギ種の幹表面形質(ワック分泌の有無)ごとにまとまることが明らかになった。
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