研究課題/領域番号 |
22255001
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
市野 隆雄 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20176291)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | オオバギ属 / シリアゲアリ属 / 共進化 / 分子系統解析 / カスミカメムシ / マイクロサテライト / 東南アジア / 熱帯雨林 |
研究実績の概要 |
1. アリ植物オオバギ属に寄生するカスミカメムシについて、これまで得られたサンプルの形態を精査した結果、7新種が含まれることが判明し、記載を行った(Nakatani et al. 2013)。次に8種(2未記載種を含む)38サンプルを用いて、核DNAおよびミトコンドリアDNAの2遺伝子領域(約1000bp)に基づく分子系統樹を作成したところ、古い年代に分岐したオオバギ種に寄生するカメムシ種の分岐は古い年代であることが判明した。さらにオオバギ寄生性カスミカメムシの起源年代は約2000万年前と算出され、アリ植物オオバギ属およびそれに共生するシリアゲアリ属の起源年代とほぼ一致した。 2. 核DNAのマイクロサテライト部位(5座位)を用いてボルネオ島に分布するアリ植物オオバギ属に共生するシリアゲアリ属の多型解析をおこなった結果、1)アリは6つの遺伝子型に分化していること、2)これらの遺伝子型は既存のmtDNA系統と一致すること、がそれぞれ示された。次にアリ遺伝子型間の交雑は約2%の頻度で起こっていたが、mtDNAの異種間浸透は起こっておらず、mtDNA系統樹の信憑性は高いことが示された。さらにマイクロサテライト解析によって新たに発見されたmtDNA系統内のサブグループが、特定のオオバギ種に対して高い種特異性を示すことが明らかになった。 3. アリ植物オオバギ属に共生するカイガラムシ類の核DNA系統樹を作成した結果、カイガラムシは9つの核DNA系統に分かれ、それぞれの系統には単一のカイガラムシ形態種が対応した。カイガラムシ核DNA系統のオオバギ種に対する特異性は、カイガラムシmtDNA系統とオオバギ種の間で報告されていた特異性よりも高いことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東南アジアの広域を対象にアリ植物オオバギ属の探索を行い、共生者(植物、アリ、カイガラムシ)および寄生者(カメムシ、ナナフシ、シジミチョウ、タマバエ)のDNA解析用サンプルを十分に得ることができた。特に寄生カメムシについては7種の新種記載に至った。カメムシの分子系統解析では、カメムシは約2000万年前に起源したという結果が得られ、この年代はアリ植物-アリ共生系の起源年代と一致することが明らかになった。また、共生アリ・共生カイガラムシのDNA解析も進展しており、mtDNAと核DNAの多型の一致性や両者の寄主特異性について新たな知見が得られた。サンプリング、DNA解析ともに当初の計画通り進展しており、得られた研究成果は学会発表および論文化を順次すすめている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに十分な質と量のDNA解析用サンプルが得られた。今後は、DNA解析を行っていない寄生性のナナフシ類およびタマバエ類について分子系統樹を作成し、寄生者らが多様化した時代および地域が共生者らのそれと一致するか否かを検証する。ナナフシ類についてはOrthomeria属の2種が複数のオオバギ種に寄生することが分かっていることから、寄主植物種ごとに遺伝的分化を起こしているか否かを検証する。タマバエ類については形態に基づく種分類が困難であり、この問題を解決するためにも頑健な分子系統樹の作成を目指す。ナナフシ類およびタマバエ類の分子系統樹はmtDNAのCOI遺伝子を用いて作成し、得られた系統樹に昆虫の平均進化速度である1.5%/100万年を当てはめ分岐年代推定を行う。 Quek et al.(2007) は、マレー半島、ボルネオ島、スマトラ島から採集したサンプルを用いて共生シリアゲアリ属の分子地理系統解析を行ったが、マレー半島のサンプル数が少ないという問題点があった。そこで、本研究で得られたマレー半島のアリサンプルを用いて分子地理系統解析を行い、マレー半島における氷期レフュジアの位置や移住・分断の解析を行う。
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備考 |
東南アジア熱帯雨林のマカランガ属植物26種は幹内に特殊な共生アリと共生カイガラムシをすまわせている。これまでの我々の研究からマカランガと共生アリの間には種特異的な関係がむすばれ、両者はここ約2000万年にわたって共進化してきたことがわかってきた。現在、共生カイガラムシおよびシジミチョウなどの植食性昆虫も含めた7者がこの2000万年の間どのように種分岐してきたのか、その全体像を明らかにしつつある。
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