研究課題/領域番号 |
22255004
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
吉村 仁 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (10291957)
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研究分担者 |
曽田 貞滋 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00192625)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 周期ゼミ / 進化メカニズム / 米国 / 分子系統解析 / シミュレーション / 素数 / 大発生 / アリー効果 |
研究概要 |
昨年度は、5月下旬から6月上旬に米国ノースカロライナ州に入国、バージニア州・ウェストバージニア州を中心に、17年ゼミの調査と標本サンプルの採集を実施した。相手国である米国の共同研究者John R. Cooley博士らと落ちあい、研究打合せを実施した。さらに、分担者曽田は3系統のブルードの全体像に分子系統解析を完了、3月にPNASに発表した。この論文はPNAS誌の「Weekly Paper」に選ばれ、日経・毎日新聞などで報道、さらに4月5日のScience誌のEditor's Choiceにおいて紹介された。 理論研究では、数理モデルにより、17年周期と13年周期の個体群の幼虫間の共食いを仮定した競争排除の可能性を解析するためのモデルを構築した。さらに、周期性進化のモデル化を始めた。つまり、周期異性遺伝子が、非周期性遺伝子から進化するかを、コンピュータ実験で検証する実験をして、その結果の収集をしている。結果から周期性が進化して固定する状況が見出されている。現在投稿準備中である。 そのほか、応用として、異形配偶子の進化におけるモデル化では、配偶子の分割回数からみた繁殖戦略による最適化においての精子・卵子の進化のモデルをPNASに発表した。さらに、行動ダイナミクスの長期的最適化が現時点での状態(動物におけるエネルギー量や人間における現資産)に依存することを見出し、J. Ethologyに2通の招待論文として発表した。その他、変動環境におけるメタ個体群の動態の解析や、変動環境における採餌行動の最適化など数編の論文を発表した。 現在、熱帯雨林の持続性、植物プランクトンの富栄養化のパラドックスなど数編の論文を投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、最初の分子系統の成果として、周期ゼミ3系統のほぼ全ブルードを網羅する分子系統樹の成果がPNASに掲載された。この論文はPNASのselected paperに選定、日経新聞、毎日新聞、ヤフージャパンのトップページに報道、さらに、Science誌のEditor's Choiceに紹介されるなど世界的に注目を集めた。ブルードの採集は、今年度まで、順調に発生域全域をカバーして実施した。 さらに、行動の動的最適化の原理から、従来のゲーム理論の公理体系に動的行動と矛盾することを見出した論文が、J. Ethologyに2通の招待論文として掲載された。この論文は、従来動的行動や繰返しゲームで使われてきたが、経済学の基礎となる意思決定理論およびゲーム理論が、静的モデルであり、動的ケースには応用できないことを世界で初めて証明した論文である。とくに、第2論文は、ミクロ経済学の基礎の意思決定理論で問題となるアレイのパラドックス(Allais Paradox)の正しい回答である。さらに、ヒメボタルの交尾行動におけるメスの発光信号を解明した論文をJ. Ethologyに発表。さらに、異形配偶子の進化の起源となる藻類の同形配偶子の異形化のモデルをPNASに発表した。また、変動環境における個体群の存続可能性に関する論文を3通発表した。1通目は、持続可能性から見た最適性比は、死亡率に依存して死亡率の高い性に偏ることを見出しEvolutonary Ecology Researchに発表。2つ目は、変動環境におけるメタ個体群の持続可能性の一般解をPhysical Review Eに発表。3つ目は、変動環境における最適採餌行動の一般解をJ. Ethologyに発表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、周期ゼミのすべてのブルードにおいて、分布域全体をカバーして、サンプルを収集する予定である。17年周期の場合、今後約10年間、採集を続けていく。同時に遺伝子解析をあらゆる観点から進めていく。幼虫採集が非常に困難なので、長期的な成虫のサンプリングがなければ、この研究プロジェクトが成り立たなくなるので、重要である。さらに、現在結果がわかり始めた周期性獲得の進化モデルをまとめて、今後発表していく。さらに、アリー効果が様々な生物の進化に関わる可能性を検討していく。 このほか応用・発展として、熱帯雨林の樹木や、水界の植物プランクトンの富栄養化のパラドックスなど様々な生物での適応・存続問題における実証研究やモデル化を進めていく。
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