研究課題
エイズウイルスのパンデミック、即ちその病原体であるHIVが世界に拡大蔓延し始めた最初の場所が中央部アフリカ地域内の何処かであろうという説に研究者らの間で異論はない。しかし、いつ、何処で、如何にして人間社会に拡がったのかについては、まだ明快な答えが出ている訳ではない。本研究では、そうした疑問に答を求めるべく、諸外国並びに我々自身のグループによってこれまでに為された調査の結果ウイルス遺伝子の多様性が最も高かったコンゴ盆地内に焦点を絞り、可能な限り多くの地域から集めた検体を分子疫学的に解析することからエイズパンデミックの謎を解き明かすことを目的としている。今年度は、昨年に続きコンゴ川の中流域にあって主要な支流が合流する赤道州に注目し、その地域に住むエイズ患者からの検体を解析した。遺伝子解析した合計61検体の内訳は、最も多いサブタイプがAで、続いてG、F、D、Cの他、未分類株Uなど様々な株があることが明らかとなり、極めて多様な遺伝子型が共存することが判明した。またこの中には、異なった遺伝子型のウイルスが同一患者に感染する、いわゆる重感染の症例が少なくとも2例は存在することが判ったが、次世代型DNAシーケンサーによる解析結果では、さらに多様なウイルスがマイナーなポピュレーションとして多重に存在しているらしいことが明らかとなって来た。既に収集していた隣国カメルーンの検体群の解析結果でも遺伝子型の多様性が示されたが、とりわけ8%という高頻度で遺伝子型の異なる株同志が同一患者に重感染することが明らかとなり、こうした重感染という現象がウイルス進化に果たしている意義が今後よりクローズアップされるべきと考えられた。また今年度は、コンゴ民主の東部北キヴ州から50検体を収集した。現在その解析が進行中である。
2: おおむね順調に進展している
コンゴ盆地は広大であるから、本研究では当初から如何に効率よく調査対象の焦点を絞っていくかが肝要であると考えられていた。これまでの調査結果から、盆地周縁部とコンゴ川流域内部を比較すると周縁部は相対的に遺伝子型の多様性が内部に比して少なめであることが徐々に明らかにされて来ており、今後の調査は盆地の中央部を重点的に進めるべきであるという指針が得られている。
上記のように調査対象地域を盆地中央部に焦点を定めるべしという科学的データによる感触を得ているので、さらにその調査地域を狭めて行きたいと考えている。問題があるとすれば、コンゴ両国におけるフィールド調査の場合、好転の兆しがあるとはいえ、相変わらず政府が不安定なため特に地方に出かけた際の治安が必ずしも保障されないという点が心配である。幸い、共同研究者らの努力により、調査対象地域の情報が事前によく収集されており、またフィールドにおける現地協力者を十分に確保しておくことでその問題を回避することが出来ている。
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