研究概要 |
疎グラフ分割問題に関して統計力学,理論計算機科学の視点から以下の研究を実施した. 1.キャビティ法による疎なランダム行列に関する第1固有ベクトルの解析 疎グラフ分割問題の代表的な近似解法であるスペクトラル法ではグラフの隣接行列の第1固有ベクトル(最大固有値に対応する固有ベクトル)にもとづいてノードを2つのグループに分割する.この手法の理論的根拠,また,適用限界を吟味するために"分割の容易さ"をパラメータΔとして含むランダム行列の数理モデルを構成し,分割可能性のΔに関する依存性を統計力学のキャビティ法にもとづいて評価した.その結果,与えられたグラフに対してスペクトラル法は常に実施できるものの,Δがグラフの次数で定まるある臨界値以上でなければ一般に得られる分割には意味のないことを示した.この結果は,スペクトラル法は必ず答えを与える一方で,その結果の解釈には注意が必要であることを意味している.この成果は,J.Phys.Conf.Ser.233,012001(11pages)(2010)として公表された. 2.最大固有値の理論計算機科学的解析 1.で得られた知見の理論計算機科学的裏付けを試みた.統計力学的な解析と同様の条件で厳密な解析を実施することは困難であるため,取り扱いが容易になる次数が十分に大きな状況を想定し,数学的に厳密な証明による吟味を行った.その結果,第1固有ベクトルが対応する行列の最大固有値に関して,Δに対応するパラメータが十分大きな極限でキャビティ法が予言する理論値に収束する上下界を得た.このことは,物理的な直感に頼った統計力学の方法およびそれによって得られた結果に対し,数学的な根拠を与える意味で重要である.この成果は,電子情報通信学会英文誌(IEICE Trans.EA)での公表が受理された.
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