研究概要 |
疎グラフ分割問題に関して統計力学,理論計算機科学の視点から以下の研究を実施した. 1.キャビティ法による疎なランダム行列に関する第1固有ベクトルの解析 疎グラフ分割問題の代表的な近似解法であるスペクトラル法ではグラフの隣接行列の第1固有ベクトル(最大固有値に対応する固有ベクトル)にもとづいてノードを2つのグループに分割する.この手法の理論的根拠,また,適用限界を吟味するために前年度に引き続き“分割の容易さ”をパラメータΔとして含むランダム行列の数理モデルを構成し,分割可能性の△に関する依存性を調べた.前年度はすべての次数(隣接行列の行・列あたりの非ゼロ要素数)が一定値cである場合の結果を得たが,今年度はそこに1つだけ大きな次数dが含まれるモデルを検討した.その結果,d>=2(c-1)であれば十分小さなΔに対して,また,d>=c(c-1)であればすべてのΔに対して,第1固有ベクトルが局在する(ベクトルの成分の大きさがO(1)個程度のノードに集中する)という結果を解析的に得た.この結果は,単一ノードの次数の変化のみで第1固有ベクトルの形状が劇的に変化し得ることを示しており,実問題に対するスペクトラル法の利用には十分な注意が必要であることを示唆している. 2.最大固有値の理論計算機科学的解析 研究協力者である渡辺の学生が,1.で得られた知見の理論計算機科学的裏付けを試みた.統計力学的な解析と同様の条件で厳密な解析を実施することは困難であるため,取り扱いが容易になる△=1の場合のみを想定し,数学的に厳密な証明による吟味を行った.その結果,1.で得られた成果を厳密に支持する結果が得られた.
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