研究課題/領域番号 |
22300003
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
樺島 祥介 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (80260652)
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研究分担者 |
渡辺 治 東京工業大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (80158617)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | グラフ分割問題 / ランダム行列 / スペクトラル法 / キャビティ法 / レプリカ法 / 評価表現辞書構築 / 自然言語処理 |
研究概要 |
疎グラフ分割問題に関して統計力学,理論計算機科学の視点から以下の研究を実施した. 1.レプリカ法とキャビティ法にもとづく疎なランダム行列に関する第1固有ベクトルの解析:前年度までに次数がすべて同じ場合と1つだけ大きな次数のある場合については統計力学的な意味で“解ける”ことを明らかにした.残念ながら,複数の次数がそれぞれO(1)の割合で存在する場合には解けない.そこで,これまでに得られた結果にもとづいて近似的な解析法を新たに開発し,次数が2種類である2極分布の場合を分析した.この成果は Y Kabashima and H Takahashi, J. Phys. A: Math. Theor. 45 (2012) 325001 [19 pages] として発表された. 2.第1固有ベクトルの厳密な解析:前年度までに樺島が統計力学的な方法で得た知見にもとづいて大きな次数d(>c) が1つだけの場合の厳密化に渡辺の学生である中川と山口が成功した.この成果は K. Nakagawa and H. Yamaguchi, IEICE Trans. Information Systems E96-D(3): pp. 433-442 (2013) として発表された. 3.統計力学的グラフ分割による評価表現辞書構築:複数種類の辞書にもとづいて構成された単語のネットワークをグラフ分割することで,良い語感と悪い語感に単語を分類する自然言語処理の評価表現辞書構築問題に対して,統計力学の知見を用いて計算量をほとんど増加させることなく性能を大幅に改善する方法を提案した.この成果は T. Goto, Y. Kabashima and H. Takamura, in Proc. of COLING2012, pp. 977--994 (2012) として発表された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の当初の目的は「これまでに得られた「解ける」モデルの結果にもとづいて,一般の「解けない」システムの性質を近似的に分析する方法を統計力学,理論計算機科学の立場から検討する.また,実データにもとづくグラフ分割問題に関しても検討を行う.」であった.これらについて,統計力学的な近似的分析法の構築に成功したこと,また,自然言語処理の評価表現辞書構築に取り組み実データにもとづいたグラフ分割問題に関して既存法を改善する成果を得たことが理由である.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究により,グラフ分割問題の有力な近似解法であるスペクトラル法の性能について,グラフの隣接行列の次数分布が大きな影響を与えることがわかった.最終年度である本年度では,この結果や結果を導出するために発展させた方法を次数相関のある系に拡張することを考える.これまでと同様,統計力学的な手法で結果の大枠を得たのち,理論計算機科学的方法によりその結果の数学的厳密化をはかるというアプローチを取る. 統計力学からの論点:昨年度までに主に研究した,大小2つの次数の値で特徴づけられる2極次数分布の系に対して,次数相関を持たせた場合のスペクトラル法への影響を調べる.具体的には,システムを次数分布のみではなく隣接する2つのノードが有する次数の同時分布で特徴づけたグラフのアンサンブルに対してスペクトラル法が利用する第1固有ベクトルの形状が,次数相関の強さによってどのように影響されるのかについてキャビティ法ならびにレプリカ法によって調べる.また,手法を一般の同時次数分布に対して拡張したり,また,グラフの頑健性解析などへと応用する. 理論計算機科学からの論点:昨年度までの研究により,2極次数分布の系については,大きな次数のノードが1つの場合について,統計力学の知見で得られた結果の厳密化に成功している.ただし,大きな次数のノードが多数になった場合の結果については,まだ,厳密化に成功していないのでこれを進める.また,上記の次数相関を導入した場合についても,結果が得られ次第,厳密化をはかる.
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