研究概要 |
分散システムを構成する要素数の巨大性はシステム制御の困難性の最大の要因である。巨大な分散システムでは、各構成要素が無視できない程度にシステムの変化は大きくなるにも係わらず、各構成要素が収集可能な局所情報が大域情報に占める割合は無視できる程度に小さくなる。このような特徴を持つ巨大分散システムに自律性を付与するための方法論を確立することが本研究の目的である。本年度は、特に、(確率的な)自己組織性と自己安定性に焦点を合わせて業績欄に示す成果を上げた。その中の一部を具体的に説明する。 分散システムの自己組織性の中で最も単純なものが、一点への集合である。この問題は単純であるが、非常に深い問題を内包しており、実際に、ある意味で最も困難な問題になっている。業績[Izumi et al, 2012]ではこの問題を解決するために必要十分な大域的な情報の量を明らかにした業績[Shantanu et al, 2012]は、従来から行っていた、分散システムにおける名前の持つ意味に関する検討成果をまとめたものであり、各プロセスがその状態に依存する「名前」を持つことができる場合について、その機能がシステムの計算能力に与える影響を検討したものである。高度な自律性の付与にはランダム性の適用が効果があることが分かりつつあるが、確率的な分散システムの主要な道具であるマルコフ連鎖の理論を分散システムの研究に直接適用することが困難であった理由の一つは、トポロジーが頻繁に変化することが特徴である分散システム上のマルコフ連鎖の理論が整備されていなかったことにある。業績[Koba et al, 2012]では、動的グラフ上の乱歩(マルコフ連鎖)を検討した。業績[Hosaka et al, 2012]では、確率的システムの実行時間の評価に対応する、乱歩の到達時間や全訪問時間を検討した。
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