研究課題/領域番号 |
22300004
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山下 雅史 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (00135419)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分散システム / 分散ロボットシステム / 自己安定化 / 局所記憶 / 確率的システム / 情報交換の局所性 |
研究概要 |
分散システムを構成する要素数の巨大性はシステム制御の困難性の最大の要因である。巨大な分散システムでは、各構成要素が無視できない程度にシステムの変化は大きくなるにも係わらず、各構成要素が収集可能な局所情報が大域情報に占める割合は無視できる程度に小さくなる。このような特徴を持つ巨大分散システムに自律性を付与するための方法論を確立することが本研究の目的である。本年度は、特に、プロセス間の同期の程度とプロセスが持つ局所記憶の量が自己組織力および自己安定力に与える影響を調べることを目指していた。 分散ロボットシステムは移動可能なプロセスから構成されるシステムである。ロボット群を与えられた幾何形状に整列させる問題はパターン形成問題と呼ばれており、典型的な自己組織化問題である。本年度の最大の結果は、2台のロボットの点形成問題を唯一の例外として、十分な局所記憶を持つ完全同期ロボットシステムで形成可能なパターンは記憶無しの完全非同期ロボットシステムでも形成可能であること、すなわち、記憶の量や同期の程度はシステムの自己組織化能力に影響しないことを示したことである。(この成果はSIAM J. Computing誌に投稿中であり、研究業績欄には載せていない。) この結果は, 自律性の付与に厳密な同期や局所記憶が必ずしも必要でないことを示しているが、この事実は固有の識別子を持たないロボットシステムについて成立するだけであり、固有の識別子が持つ意味については未だに明確ではない。しかし、古典的な分散計算の理論から類推すると, 確率的なロボットシステムでは高い確率で各ロボットに固有の識別子を与えることができると考えられるので、確率的なロボットシステムと決定的システムとの能力差が存在しないという予想を立てて、いくつかの考察を始めている。 それ以外の結果については、業績欄に示す文献を参照されたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要および業績欄に示したように、研究はおおよそ順調に推移している。もちろん、すべての理論研究に共通するように、研究が終了することはほとんどなく、研究の進展は、関連する新しい問題の発見と、未解決で残されている困難な問題について、それが困難であることの認識への到達によって計量される。我々の場合も同様であって、研究業績の概要および業績欄で述べた個別の研究課題のそれぞれについて、最も困難な場合が未解決で残されていて、今後、検討を続ける予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度で触れたように、年を追って複雑で困難な問題が未解決問題として現れるのが理論研究の常であるが、来年度が最終年度にあたるので、研究全体がそれなりの形で終了できるようにまとめて行くことにも力を注ぎたい。 我々の目的は、確率的、匿名、無記憶、非同期などの(問題解決に対する困難性を表す)概念で特徴付けられる自然分散システムが、決定的、有名(固有の識別子を持つ)、有記憶、同期などの(問題解決に対する有効性を表す)概念で特徴付けられる人工分散システムに比べて容易に自律性を獲得できる理由を明確にすることであった。研究実績の概要に示したように、これまでに、分散ロボットシステムの自己組織化能力を中心として、名前の一意性、記憶の有無、同期性、(獲得できる情報の)局所性が自律性の獲得に与える影響を検討してきているが、特に、(難しかったので)検討が後回しにされていた課題は、ランダム性と局所性である。昨年度から検討を始めているが、本年度はこの問題を中心に取り上げたい。我々の予想は、ランダム性こそが自然分散システムの自律性獲得の優越性の源泉であることであり、予想を肯定的に解決することを本研究全体の最終的な結論とできるように頑張りたい。
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