研究概要 |
本年度に関しては,主に以下の項目に関する研究を行った. 1)大規模空間データに対するHadoopを用いた問合せ処理技術の開発:Hadoopとは,並列分散クラウド環境においてデータ処理を行うためのフレームワークであり,MapReduceと呼ばれる仕組みに基づいている.本研究では,特に地図等の空間データを効率的に処理するためのアプローチを開発した.全k最近傍問合せ(all k-nearest neighbor query)の処理手法を開発し,実装し評価を行った.この間合せは,データベース中のそれぞれの点について,最も近いk個の点を対応づける処理である.これを並列環境で一気に実行するためのアプローチを示した. 2)位置に基づく情報サービスのための匿名化技術に関する研究:この研究では,クラウドベースのサービス側に焦点を当てた.位置に基づく情報サービスでは,ユーザの位置が分かってしまうなどのプライバシの問題が存在する.ここでは特にユーザのプロファイル情報を活用するモバイル広告を対象としているが,ユーザの属性情報をもとにユーザが視覚的に特定されてしまうことがある.このような問題を防ぐための匿名化処理のフレームワークの開発を行った. 3)位置に基づく周辺情報推薦のための方向に基づく周辺情報間合せ手法の開発:モバイルユーザに対して周辺情報を提供しようとしたとき,しばしばある特定の方向にのみ情報が集中しており,周囲に対してまんべんなく情報を得たいユーザの要求に応えられないという問題があった.ここで提案する方向に基づく周辺情報問合せ(direction-based surrounder query)は,近い情報から順に,ただし,方向がそれぞれ異なるように配慮して情報を取捨選択する新しい問合せ手法である.特にこの研究では,連続的にモバイルユーザが移動を続ける場合にリアルタイムに情報提示を切り替えていくための効率よい問合せ処理手法の開発を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に関しては,各項目でそれぞれ進捗状況が異なるが,おおむね順調に進展しているといえる-Hadoopを用いたクラウド環境での空間データ処理技術に関しては,環境の整備なども必要であったため,まずは基礎的な手法についての試行的実験が中心であったが,興味深い成果が得られている.今年度特筆すべき成果としては,方向に基づく周辺情報問合せにおいて著名ジャーナルに採録されたことである.これは予想以上の進展であった.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画について大きな変更はないが,クラウドコンピューティングに関しては,非常に着目されている領域でもあり,さまざまな提案が多方面でなされている.それら研究成果や新たなソフトウェアなどを貪欲に取り込んでいくために,研究調査も引き続いて行っていく必要があると考えている.
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