バイノーラル信号によって再生される立体音像の知覚において受聴者の頭部運動が果たす役割を体系的に明らかにするために、平成22年度は以下の研究を行った。 第一に、音像定位における頭部運動の効果を明らかにするために、音像定位実験中の被験者の頭部運動を記録するシステムを構築し、実音源に対する頭部静止条件と頭部運動条件での音像定位実験中の頭部運動を記録し、その一部を解析した3その結果、頭部静止条件では被験者の頭部回転角度は1.4度以下であること、胴部運動条件では被験者は音像方向に頭部を回転させるが音像が正面に来るようには頭部を動かさないことがわかった。 第二に、動的聴覚ディスプレイを用いて、受聴者自身のHRTF、他人のHRTF、受聴者の頭部形状から算出したHRTFの3種類を用いて合成したバイノーラル信号に対する正中面と水平面の音像定位実験結果を解析した。その結果、いずれのHRTFを用いた場合も頭部運動を反映した動的バイノーラル信号を用いることにより、音像定位精度は高くなることがわかった。また、実験に用いる被験者のHRTFを短時間で計測する方法についても検討を行い、その有効性を確認した。さらに、音像定位実験用ヘッドホンの音圧較正と応答特性の計測に使用するIEC711型人工耳の妥当性についても検証した。 第三に、他人のダミーヘッドをテレヘッドに装着して実音源に対する水平面と正中面の音像定位実験を行った。その結果、自分のHRTFとは異なる他人のダミーヘッドを用いても、頭部回旋運動を行うことによって、水平面でも正中面でも音像定位精度は頭部静止条件よりも高くなることが分かった。 第四に、音像定位処理に関与する聴覚生理学の理解の現状について調査しそれらをまとめた。
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