バイノーラル信号によって再生される立体音像の知覚において受聴者の頭部運動が果たす役割を体系的に明らかにすることを目的として、平成24度は以下の研究を行った。 第一に、昨年度に導入した新型テレヘッドの最終調整を行うとともに、その運動特性と音響特性を明らかにした。その結果、新型テレヘッドの頭部追従遅延時間は10 ms 以下、ライン混入雑音レベルは20 dB 以下で、旧型のテレヘッドより性能が高いことを確認した。 第二に、頭部運動追従遅延時間が約120 ms の旧型テレヘッドと10 ms 以下の新型テレヘッドを比較した場合、頭部運動条件における頭外音像定位正答率には有意差が無いことがわかった。一方、遅延時間が短い新型の方が、受聴している立体音のリアリティは高いこともわかった。このことは、音像定位実験の音像定位正答率からは定量的に判定することはできず、新たな立体音のリアリティ知覚を評価する方法の検討が必要である事を示唆する。 第三に、被験者の頭部運動速度と運動方向を修飾する運動変換関数を用いてテレヘッドを動作させた場合の音像定位実験を行った。その結果、昨年度実施した予備実験の結果と同様に、運動速度と運動方向の修飾の多寡によらず、頭部運動がありさえすれば、音像定位がしやすくなることを確認した。 第五に、音像定位処理における頭部運動の寄与に関する神経生理学的基盤の理解の現状について総括した。
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