研究概要 |
オランダ国立ライデン民族学博物館,千葉県立美術館,日本浮世絵博物館,ならびに,名古屋市博物館における現地調査で撮影収集した遊女絵,および,立命館大学アートリサーチセンターの協力により調査を行った英国Victoria&Albert Museumが収蔵する電子化された遊女絵を中心に,画像に検索語を施した.吉原における遊女の在楼期間の特定を容易にするために,吉原細見を電子画像化し,文字情報を翻字することを継続した. 文政期に渓斎英泉が描いた複数の揃い物の遊女絵について,絵に描き込まれた文字情報や属性情報としての紋,ならびに,吉原細見の調査によって特定した花魁の在楼期間の情報から,開板年を特定することが可能となった.この結果,文政期における遊女絵には,歌麿や清長が描いた天明,寛政期の絵とは異なり,「引込み新造」や「振袖新造」が「一人立ち」として描かれていることが明らかとなった.文政期における文化の変化を予想させるものであった.また,システムとしての妓楼において,妓夫を含めて紋を共有し力のある姉女郎がコントロールする,モジュールと言うべきサブシステムが妓楼において存在していることを,遊女絵の調査から立証できた. 浮世絵の画題となった吉原の風景のうち,現在の状態と比較可能な部分を現地で撮影し,現在の風景と浮世絵の描写との対比を可能にする画像データベースの構築を試みている.この一部を,2011年12月に開催の「吉原と浮世絵に関するプレ国際シンポジュウム」のコメントに利用した. データベースの構築においては,要求そのものを構造化して整理することで,システム運用時に効率的に情報検索できる仕組みを考案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遊女絵の開板時期を明確にした研究からは,文政期の遊女絵のスタイルが明確になり,さらに,妓楼におけるサブシステムの存在も実証され,文化史,社会史研究の観点からは,当初の計画以上の成果を挙げている.データベース構築,データマイニングに関しては,計画どおりに進行しており,全体としては(2)と評価してよい.
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今後の研究の推進方策 |
吉原細見と浮世絵データベースとを照合することにより,遊女絵の開板年が明確になってきた.このことから,遊女絵が描かれた時点での,妓楼のビジネス戦略やマネジメントが見えてくる.吉原研究を,従来の好事的研究から脱却させ,江戸のビジネスシステム,あるいは江戸の社会システムの研究として発展させるように,方向づけていきたい.
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