研究概要 |
物体認知に至る最も根本的な問題は,形状の知覚とその皮質表現である。本研究は,その知覚現象を明らかにし,それを生起する神経機構を明らかにすることを目的とする。本年度は,面(図)が知覚されるための準大域的な輪郭の特徴を心理物理学的に明らかにした。さらに,2次元面表現から3次元形状表現への変換・形成の基礎機構となる計算論的モデルを提案した。 輪郭が内在するどの特徴が面(図)を決定する因子であるかを,心理物理実験によって明らかにした。具体的には,まず自然画像輪郭を呈示して,それぞれの図方向判定に要する反応時間を計測した。自然画像(Berkeley Segmentation Dataset)から視野角約15度幅の領域を選択し,この領域内部の輪郭(準大域的輪郭)を被験者に呈示した。反応時間(図知覚の難易度)を測定し,これと輪郭が内在するどの特徴とに関係があるかを解析した。反応時間と刺激特徴の関係は,計算統計解析・多変量解析によって客観的・定量的に導いた。可能性のある特徴(e.g.,凸性,並行性,閉合性)について最適化多重回帰分析を実施して,因子として可能性の高い特徴を探索した。この結果、閉合性がもっとも面決定に効果があり,続いて凸性が有効であることが示された。 計算論的には、輪郭の幾何学に基づいて生成される同期について検討した。シミュレーション実験を行ったところ、同期の程度が凸性・閉合性によって変化する現象が観察されたが、同期の変調程度が小さかったことから、これが知覚の主要因とはなり得ない可能性が示された。さらに、局所的には左右眼像から算出された2つの2次元中心軸表現を融合することによって3次元中心軸を決定するenergy modelを提案した。シミュレーションによる検討の結果,このモデルはヒトの知覚と同等な3次元形状表現が実現できることが示された。
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