研究概要 |
推論能力の違いを決定している要因について、これまでの作業記憶負荷に基づいた理論では結果を十分には説明できていない。これに対して、我々は圏論に基づいた新しいアプローチを考案し、課題関連次元の統合および分離(直積および直和)が重要であると提案した。本年度は実験的研究および理論的研究を行った。 実験的研究では、課題遂行中の脳波の位相同期性を解析し、そのデータに基づいて理論の検証を行った。実験参加者は妨害刺激の中に提示された標的の位置判断課題を遂行した。刺激は3次元(色、方位、周波数)の特徴で構成されており、標的を特定するのに必要な直積の次元数(production arity)を独立変数として操作した。刺激提示後200-250ms区間の前頭一頭頂間における低ガンマ帯域(22-34Hz)の位相同期性を解析した結果、直積の次元数(unary,binary,and ternary)の増加に伴って同期性がほぼ線形に高くなることが明らかになった。一方、高ガンマ帯域(36-56Hz)では直積の次元数の効果は認められなかった。これらの結果は、直積処理が高次な認知活動に関連しており、位相同期性を指標として評価可能であることを示している。 また、本研究では位相同期性解析のための統計手法の開発も行った。位相同期性解析では、膨大な数の多重比較が必要であるため、有意性検定の修正が困難であった。そこで、optimal discovery手続きを発展させ、第一種過誤の危険率を維持したまま位相同期性解析の検出力を向上させる方法を提案した。さらに、理論的研究では、プルバックを用いて、課題関連次元に何らかの制約があるような場合にも適用できるように圏論的アプローチを拡張した。この拡張は次年度以降の実験的研究を進める上で重要であると考えられる。
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