研究概要 |
本研究の目的は、圏論に基づいて複雑な事象に対するヒトの認知メカニズムを理解することにある。この目的に沿って、本年度も昨年度に引き続き、実験、理論、方法論の3つのアプローチを行った。(1)実験的アプローチでは、圏論における直積の引数をパラメトリックに3段階(一次、二次、および三次)で操作した視覚探索課題を用いて、脳波の位相同期性を検討した。その結果、標的の定義次元数(すなわち直積の引数)の増加に伴って前頭-頭頂間の位相同期性が線形に増加することが明らかになった(Phillips, Takeda, & Singh,2012)。この結果は、圏論の直積に基づいた複雑な事象の認知プロセスにおいて、脳内の位相同期性がその過程を反映することを示唆している。(2)理論的アプローチでは、quasi-systematicityをもつ課題(例えば、色と方位の2属性の直積において赤と垂直および青と水平は結合されるが、赤と水平の間に系統的な結合がない課題)においても、ファイバー積(プルバック)の概念を援用することで圏論による説明が可能であることを示した(Phillips & wilson,2011)。本理論に基づくと、上記の視覚探索実験における標的定義特徴次元(色、方位、周波数など)の数はファイバー積の引数に対応させることができる。(3)方法論的アプローチでは、脳波の位相同期性解析における多重比較の問題について新しい統計手法を提案した。位相同期性解析では、時間×周波数×電極ペアの計測値に対して多重比較を行い、その統計値を修正する必要があるが、これまでの方法では第2種の過誤が起きる可能性が高かった。これに対して、optimal discovery procedureの適用など、統計解析方法を発展させた(Singh, Asoh, & Phillips,2011)。
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