研究概要 |
本研究の目的は、圏論に基づいて複雑な事象に対するヒトの認知メカニズムを理解することにある。この目的に沿って、実験的研究と理論的研究を行った。 実験的研究:我々が提案している圏論的アプローチでは、直積および直和の引数が認知的複雑性を定義していると想定している。昨年度までに行った実験的アプローチでは、視覚探索課題における直積の引数(標的を定義している特徴の次元数)を系統的に操作し、前頭-頭頂間の位相同期性が引数の増加に応じて強くなることを明らかにした。そこで本年度は、認知課題における直積と直和の双対原理を確認するため、直和の引数を段階的に操作し、前頭-頭頂間位相同期性との関係性を検討した。実験参加者は画面上に提示されたオブジェクトが乗り物か否かの判断をするカテゴリ判断課題を遂行した。オブジェクトは1個のシルエット、2個あるいは3個に空間的に分割されたシルエットで提示され(引数1~3に対応)、分割されている刺激を判断するにはオブジェクトを結合する(直和を求める)必要があった。実験の結果、引数の増加にともなって刺激提示後200-400 ms×30-40 Hz帯域の前頭-頭頂間位相同期性の増加が観察された。この結果は、昨年度の直積を検討した視覚探索の結果(引数の増加に伴う175-225 ms×30-38 Hz帯域位相同期性の増加)とオーバーラップしている。カテゴリ判断課題を用いた直和の結果について更なる分析が必要であるものの、これらの結果を総合すると、複雑な認知における圏論的計算原理が前頭-頭頂間の位相同期によって実装されているとする仮説を一般化できる可能性を示している。 理論的研究:これまでの圏論的アプローチを発展させ、数学や言語などにおいて扱われているような再帰的構造にも適用できるように拡張した (Phillips & Wilson, 2012, in press)。
|