研究課題
本研究は、1.タンパク質の適応進化の推定、2.集団遺伝と系統地理、3.遺伝-子型-表現型関連解析を3つの柱として、急速に充実してきている時空間情報を利用した統計遺伝学モデルを開発することを目的とした。本年度は、以下のように研究を遂行した。1.タンパク質進化:ωの時空間分布モデルの開発初年度において、立体構造上のωの事前分布として拡張イジングモデルを導入し、アミノ酸配列の尤度に組み込むことにより、多様化圧のかかる領域を階層ベイズで推定する方法を開発した。本年度は系統樹の枝間の分布を導入することにより、多様化圧の領域の時間変動を推定する手法の開発を目指した。計算時間上の制約は残るが、モデルは完成した。2.メタゲノム解析による古細菌群集のβ多様性マップ下北半島沖の海底地層8層から採られた古細菌群集の16SrRNAデータ(各層約1000配列)に加え、NCBIに登録されている群集配列データ(213群集、9529配列)を分析した。群集間平均進化距離により世界の群集の関連性を調査したところ、群集の組成は地理的な距離、地質年代の違いよりも棲息環境を反映していることが読み取れた。3.遺伝子型/表現型/遺伝子発現のグラフィカルモデリング疾患やストレス応答など表現型の変異と、遺伝子発現、調節因子の遺伝子型の間の複雑な関連をグラフィカルモデリングで表現し、各因子の直接効果、間接効果を推定する方法の開発に着手した。遺伝アルゴリズムにより、超多次元空間からデータに適合するグラフを推定精度とともに求めることを目指している。さらに、β尤度法から派生するβ重み分布を予測分布と対比することにより、統計的に発現プロファイルの異常値を検出し、モデル診断を行う方法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
研究目的の3本柱の1については、拡張イジングモデルによるインフルエンザHAにかかる多様化圧の領域推定を行い、現在領域の時間変動を取り入れたモデルの開発に取り組んでいる。2については、飛び石モデルとABCによるマラリア伝搬速度の推定を行い、メタゲノム解析による古細菌群集のβ多様性マップを構築した。また、3については、スキャン統計により遺伝子ネットワークにおける稀な疾患関連コピー数多型の集積性を検出し、遺伝子型/表現型/遺伝子発現のグラフィカルモデリングを進めている。すでに成果の一部が論文として刊行されている。
古細菌群集のメタゲノム解析と遺伝子型/表現型/遺伝子発現のグラフィカルモデリングなど、当初計画を超えて研究の幅を広げてきている。平成23年度は本研究の最終年度になるため、これらも含め、進行中のプロジェクトを完成させ、成果のとりまとめに重心をおく。
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