研究概要 |
平成22年度は主として,グラフの幾何的な構造と確率伝搬法との関係に関する研究に進展が見られた.離散状態を持つグラフィカルモデルでは、事後確率や周辺分布を正確に計算しようとすると,計算量の組み合わせ的爆発の問題が生じるため,これに対処するために局所計算の繰り返しによって近似計算を行う確率伝搬法が,確率推論のための計算手法として重要な役割を持つ.しかしながら,グラフがサイクルを持つ場合のアルゴリズムの特性の解明はいまだ極めて不十分であり,特にその収束性や解の一意性に関しては,さらなる理論的基盤を深める必要性が高い.本研究においては,研究代表者のグループによって今までに得られたグラフゼータ関数による独自の解析法を用いることにより,確率伝搬法の解の一意性の条件を,グラフィカルモデルの局所的な相関の正負を表わす符号付きグラフによって特徴づける理論的な結果を得た.これは解の一意性や収束性に関する従来研究とは全く異なるアプローチによる強い結果であるとともに,グラフの位相幾何的な性質との関連も示唆しており,今後の数理的研究の深化が期待できる. 無限次元情報幾何による期待値伝搬法の解析基盤であるカーネル法に関しても研究を推進し,特に,再生核ヒルベルト空間上の平均による確率分布の表現に関して,平均が分布を一意に定めるための条件を明らかにした.この結果,どのようなカーネルを選択すると広いクラスの確率分布が表現できるかを判定することが可能となり.実用上の示唆が得られる.また,研究代表者らがこれまで進めたカーネル法研究の成果をまとめた書籍を上梓した.
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