研究概要 |
我々が既に開発した自由エネルギー関数Fおよびその2つの成分である水和エントロピーSと脱水和の全ペナルティーΛを用いて,実験で得られた蛋白質天然構造モデルのキャラクタリゼーション法を開発し,ユビキチン単量体の数多くのモデルに対して例証した。この方法は,単なる幾何学的な観点からではなく,水和の熱力学の観点からモデルを評価するものである。対象としたモデルは,X線結晶解析で得られた3種類のモデル(X線モデル)とNMRから得られた10種類のモデル(NMRモデル)である。後者は,さらに2つのタイプに分けることができる。タイプ1は単一の天然構造に対する候補構造であり,タイプ2は溶液中の構造ゆらぎを表現した構造アンサンブルである。全体的にX線モデルの方がNMRモデルよりも低いFの値を持つという結果が得られた。タイプ1のNMRモデルでは,X線モデルに近い構造ほどFが低くなるという強い傾向が見られた。一方,タイプ2のモデルには,X線モデルからずれた構造をとりつつも低いFを維持しているモデルも数多く見出された。タイプ1とタイプ2の両方で,「構造計算に有効に組み込まれた拘束条件が多く,より構造が収束しているNMRモデルほどFが低くなる」という強い傾向が認められた。ΛとSに注目し,分子内水素結合形成の確保の状況や主鎖・側鎖のパッキング効率を調べることもできた。Fは,新しく報告されるNMRモデルの評価,複数の候補構造からの最良構造の選出,明らかになったモデルの弱点の解消などに適している。Fを用いて,NMR実験から得られた拘束条件に基づいて天然構造モデルを一から作成する方法の開発に着手した。拘束条件をどこまで減らせるか,ケミカルシフトのみで良好なモデルが得られるかについても検討した。拘束条件が無くなった場合が立体構造予測に該当し,それにも繋がる研究方向である。
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