研究概要 |
本研究は,コンピュータシミュレーションを用いて,F1分子モーターの解明することを目的としている.当該年度には,まず,F1分子モーターのエンジン部分に当たるβサブユニットの構造変化について,ATPが結合状態と非結合状態での自由エネルギープロファイルを計算した.その結果,βサブユニットは,ATP非結合状態では,オープン状態が安定であり,ATP結合によってクローズド状態が安定になるという実験結果と一致した結果を得た.そして,ATP結合によってクローズド構造になる際の遷移過程について,詳細に自由エネルギープロファイルを調べたところ,β3/β7というβシートのペアの水素結合,ヒンジ部分の主鎖2面角のフリップ,P-loopでの水素結合の組換えという一連の構造変化が起こり,構造変化のスイッチを形成しているようであった.しかし,それらの構造変化では,自由エネルギーは緩やかに増加していて,トルク出力の駆動力にはなっていなかった.駆動力になっていたのは,その後の構造の屈曲過程にあった.先の一連の構造変化の結果,βシートに疎水性の面が形成され,αヘリックスBがその上を滑ることで,疎水性相互作用が強固になるという現象が起こる.その周辺の水分子を調べたところ,その構造変化の最中に水分子が排除されている様子が観察された.そのαヘリックスBが滑ることで,βサブユニット全体の屈曲構造が誘起されて駆動力を形成していることが明らかになった
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