本研究は,コンピュータシミュレーションを用いて,F1分子モーターの解明することを目的とした.平成24年度には,下記の成果を得た. (1) リン酸解離に伴うF1分子モーター全体の構造変化の分子動力学計算を行った.酵母のF1-ATPase(YF1)のリン酸結合型と解離型の2種類の立体構造に対し,溶媒分子も露わに含んだ全原子分子動力学シミュレーションを遂行し,リン酸解離によるγサブユニットの回転と,回転子に対する固定子であるα・βサブユニットのパッキング状態の変化の関係,そして,リン酸解離に伴うアロステリックな構造遷移の伝播について解析した.この成果は,国際学術雑誌J. Phys. Chem. Bに学術論文として出版した. (2)液体統計力学理論の専門家との共同研究によりF1分子モーターの作用機序について統計力学解析を行った.上記酵母のF1-ATPase (YF1)のリン酸結合型と解離型の2種類について(1)の分子シミュレーションと相補的に液体統計力学の解析を行い,サブユニットのパッキング変化と溶媒和の関係を明らかにした.この成果は国際学術雑誌J. Chem. Phys.に学術論文として出版した. (3) F1分子モーターのβサブユニットのC端部位のアミノ酸側鎖を複数同時に変異させる分子動力学シミュレーション計算を一分子実験と連携して行った.この変異により回転トルクが減少するが,その原因についてシミュレーション結果により考察した.この成果は国際学術雑誌Biophys.J.に学術論文として出版した. (4) ATP加水分解後のα―βサブユニットが閉構造から半開き構造になる構造変化に対する自由エネルギープロファイルを計算した.その結果,ヌクレオチド状態の違いによる構造変化の自由エネルギープロファイルの変化が明らかになった.
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