本年度は、C57/BL6マウスの慢性標本を研究材料として、タンパク合成阻害剤のHorizontal optokinetic reflex (HOKR)の運動学習の薬理作用を検討した。HOKRは、眼前においたチェック模様のスクリーンを周期0.22Hz、振幅15度で正弦波状に回転させ誘発した。誘発される眼球運動を、赤外線テレビカメラを用いて計測し、利得(スクリーンの動きと眼の動きの比)を算出した。HOKRの運動学習は、800サイクルのスクリーンの回転を1時間持続的に見せる方法(集中訓練)と、200サイクルのスクリーンの回転を、1時間おきに15分ごとに合計4回見せる方法(分散訓練)の2種類で行った。両側小脳片葉にアニソマイシン溶液(62.5μg/0.5μl)もしくはコントロールのリンゲル液を微小投与したが、投与後の6時間は、HOKRの利得には影響は見られなかった。次に、集中訓練と分散訓練のそれぞれ4時間と2時間前に、両側片葉にアニソマイシンもしくはリンゲル液を投与し、訓練によって生じる利得の変化を調べた。集中訓練による利得の増加には、アニソマイシンとリンゲル液投与群には有意差は見られなかったが、分散学習による利得の増加は、リンゲル液投与群に比べて、アニソマイシン投与群は有意に減少していた。先行研究により、分散訓練によって生じるHOKRの利得の適応の運動記憶は前庭核にあり、かつ長期間保持されることが、局所麻酔薬を用いた実験により報告されている。この実験の結果は、小脳皮質による運動学習の獲得には、タンパク室合成は関与しないが、前庭核における記憶の保持に、小脳皮質のタンパク質合成が重要であることを示唆する。以上の結果を2010年度の日本神経科学学会に報告し、英文学会誌に投稿中である。
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