本年度は、小脳皮質から各への記憶痕跡の移動が反射の学習のみならず随意運動の学習でも生じるかを、プリズム適応の理論モデルを提案することと、ヒトを対象にした手の到達運動のプリズム適応の実験パラダイムを開発することの2種類の方法から検討した。 Martin et al. (1996)に報告されているヒトの矢投げの長期(6週間)のプリズム適応のデータを材料として、短期のプリズム適応の記憶痕跡は小脳皮質、長期のプリズム適応の記憶痕跡は小脳核にあり、それぞれが独立に作用するというモデルを作成し、それにより報告されている長期適応後の矢投げの行動が説明できることを示した。この結果を、2012年の神経科学学会で報告するとともに国際学会誌(Neural Networks)に論文発表をおこなった。 東京医科歯科大神経内科のグループと共同でヒトを用いた手の到達運動のプリズム適応のパラダイムを開発し、短期の適応を定量評価する方法を提案した。プリズムメガネを装着した被験者に眼前のタッチパネルに提示された視標を指でタッチさせ、視標とタッチ点とのずれをリアルタイムで計測した。また矢投げと同じ実験条件を実現させるために、手の運動の開始時点をモニターし、開始後1.5秒間、プリズムの前面においた電磁シャッターを閉じて視覚を遮断した。健常者では、20-40試行で適応が生じプリズムによる視野のズレを修正しることができたが、小脳疾患の患者では、視野のズレの修正が大きく減弱するか、もしくは見られなかった。これらの所見を2012年の神経科学学会で報告するとともに、東京医科歯科大学と共同で特許の出願をした。
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