久山町コホート疫学研究では耐糖能異常が脳血管型認知症と同様にアルツハイマー病において有意な危険因子であることを明らかにしてきた。アルツハイマー病は病理学的に老人斑と神経原線維変化を特徴とする神経変性疾患であり、老人斑と神経原線維変化の蓄積にインスリン抵抗性が関与する可能性を統計学的に解析し、耐糖能異常、特にインスリン抵抗性が主に老人斑の形成に関与することを明らかにした。続いて脂質代謝異常とアルツハイマー病の病理所見、特に老人斑の蓄積に焦点を当て、統計学的解析を行なった。1998年10月から2003年3月の期間に死亡した久山町住民290例のうち、他院剖検例、検討不能例を除いて連続剖検例が211例あり、解剖率は約73%であった。そのうち、1988年の久山町住民健診を受診し、かつ中性脂肪に対する食事の影響を除外するため空腹時採血を受診した147例を対象とした。アルツハイマー病の病理解析のために老人斑の評価はCERAD criteria、神経原線維変化については、Braak stage分類に基づいて行った。老人斑の出現頻度によるCERAD分類ごとに総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の平均値を性、年齢調整をして共分散分析(ANCOVA)をした結果、総コレステロールとLDLコレステロール平均値は老人斑なし群に比べると老人斑の出現群で上昇しており、一方HDLコレステロールの平均値は、老人斑なし群と比較して、老人斑の出現群で低下していた。さらに脂質の値により4群に分け、ロジスティック解析でオッズ比を算出した所、総コレステロールとLDLコレステロールでは、値の最も低い群と比べると、最も高い群でオッズ比が急上昇し、一定の値を超えると老人斑形成のリスクが有意に高まった。
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