研究概要 |
一般住民の連続剖検症例を用いて、老人斑と神経原線維変化の病理変化と脂質代謝異常との関連について病理疫学的に検討した。昨年度、老人斑なし(none)に比べると老人斑が出現した群では総コレステロリルとLDLコレステロール平均値が有意に上昇しており、一方HDLコレステロールの平均値は、老人斑なしと比較して、老人斑が出現した群では低下する傾向がみられることを見出した。本年度はそれに追加して老人斑の出現頻度をCERAPのスコア(none,sparse,moderate,frequent)ごとに細分して統計学的に検討した。この結果、老人斑が高頻度(frequent)に出現し、病理学的にアルツハイマー病の病変に相当する群でも総コレステロールとLDLコレステロールが一定の値を越えるとオッズ比が有意に上昇した。 具体的な数値として老人斑形成の頻度はそれぞれ総コレステロール≦224mg/dlの時62.2%、総コレステロール>224mg/dlの時86.1%、LDLC≦155mg/dlの時62.7%、LDLC>155mg/dlの時85.7%、HDLC≧40mg/dlの時62.7%、HDLC<40mg/dlの時83.8%、TG≦139mg/dlの時65.2%、TG>139mg/dlの時77.1%であった。 総コレステロール高値、特にLDLコレステロール高値でHDLコレステロール低値の場合、老人斑形成のリスクが高まることが確認され、この成果を学術誌に発表した(Matsuzaki T et al.Neurology、2011)。 これまでのアルツハイマー病の脳病変に重点を置いた研究の成果として、生活習慣病関連因子である耐糖能異常と脂質代謝異常の両方が老人斑の形成を通して、アルツハイマー病の病態に関与している可能性を示した。
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