研究課題
グアム島のALSにおけるリン酸化TDP-43封入体出現の局在と頻度が、日本人孤発性ALSのそれらと殆ど一致することを見出した。これは即ち、過去に「グアム島のALSは特異なALSであり、世界各地の孤発性ALSとは異なる疾患である」と言われた事柄を否定する所見の一つであり、「グアム島に孤発性ALSが世界頻度の100倍も多発した」事を示唆する所見である。なぜグアム島に孤発性ALSが多発したか、その原因追及が世界各地の孤発性ALSの解決に直結している事を指摘した。孤発性ALSの脊髄運動ニューロンで既に見出した、リボゾームRNA遺伝子転写活性の減少であるが、家族性ALSモデルであるSOD1遺伝子H46R変異ラットにおいては、リボゾームRNA遺伝子転写活性の減少が無い、ことを見出した。これは即ち、孤発性ALSと、SOD1遺伝子変異による家族性ALSとは、異なるメカニズムによって運動ニューロンが変性脱落することを示唆している。ALSの脊髄運動ニューロンで、ALS特異的に認められるブニナ小体(主たる構成成分はcystatin C)に、蛋白の折りたたみに関与する分子シャペロン(KDEL)が共局在している事を見い出した。KDELがcystatin Cの凝集、すなわちブニナ小体形成のシード(核)になっている可能性を指摘した。ALSと共にグアム島で多発したパーキンソン認知症では、側頭葉アンモン角では強い神経細胞脱落が見られるが、それは、神経細胞内TDP-43封入体の出現とは相関せず、神経細胞の核からのTDP-43消失と相関していること、即ちTDP-43封入体そのものは細胞障害性では無い事、核からのTDP-43の消失が細胞の生存に深く関与している事を見出した。
2: おおむね順調に進展している
ヌクレオリンのin situ hybridization、リアルタイムPCRの検索が遅れているが、グアム島のALSにおけるリン酸化TDP-43封入体出現の局在と頻度の特徴、SOD1遺伝子H46R変異ラットにおいてはリボゾームRNA遺伝子転写活性の減少が無いこと、ブニナ小体での分子シャペロン(KDEL)の共局在、パーキンソン認知症の側頭葉アンモン角での神経細胞脱落が核からのTDP-43消失と相関していること、などを解明し目的達成のための所見を得た。研究計画は概ね順調に進行している。
ヌクレオリンのin situ hybridization、リアルタイムPCRの検索の遅れは、剖検材料の死後変化による遺伝子断裂の可能性が考えられるため、なるべく死後経過時間の短い症例を得て検索を完遂し、計画の全てのデータをそろえて解析を加え、ALS発症の鍵に迫りたい。
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