研究課題
パーキンソン病は遺伝的、及び環境要因による酸化ストレスとそれに伴うミトコンドリア阻害により、ドパミン神経細胞死が誘発され、ドパミン量の減少が原因と考えられているが、未だに詳細は不明である。パーキンソン病の治療は、不足するドパミンを補充する対症療薬が用いられているが、治療中も神経細胞死は進行することから、酸化ストレス誘導神経細胞死を阻止する根本的な治療薬の開発が必須である。昨年度、ドパミン合成のキー酵素をコードするチロシンヒロドキシラーゼ(TH)遺伝子発現をヒト特異的にDJ-1が正に制御する分子機構を明らかにした。具体的には、ヒトTH遺伝子上流領域に結合する転写レプレッサーPSFにDJ-1が結合し、PSFをTH遺伝子から離脱させる。マウスにおいてはこの系は存在しなかった。従ってDJ-1変異が原因のパーキンソン病患者ではドパミン量の減少が見られるのに対し、DJ-1ノックアウトマウスではそれが見られないことに対する1つの解答を与えたものと考えられる(Ishikawa et al.JBC, 2010)。また、パーキンソン病治療薬を目的としてDJ-1の活性領域である106番目のシステイン領域に結合する低分子化合物を生薬成分から単離した(Gao et al.JPS, 2011)。今年度はさらに、in silicoスクリーニングによりDJ-1活性領域106位システインを特異的に認識・結合する低分子化合物を検索し、得られた候補化合物、および様々な誘導体について生理活性をin vitroならびに疾患モデル動物実験において確認・解析した(Kitamura et al. Mol. Neurodegeneration, 2011)。DJ-1特異的結合化合物はDJ-1の106位システインの過剰酸化を防ぎ、PTENを介したシグナル伝達経路におけるDJ-1制御作用を酸化ストレス下でも保持することで酸化ストレス応答遺伝子群のNrf転写制御系に作用することを見出した。また、酸化ストレスから神経細胞を保護する機能を持つタンパク質の一つであり、パーキンソン病患者では発現減少が報告されている小胞モノアミン輸送体2(VMAT2)とDJ-1が直接結合することを見出した(Ishikawa et al.BBRC, in press)。
1: 当初の計画以上に進展している
DJ-1結合化合物スクリーニングが首尾よく運び、そのうち生理活性・薬理活性を高める誘導体の解析まで進むことができた。パーキンソン病の病因解明および治療・予防法開発に新たな視点をもたらすDJ-1とVMAT2との相互作用を明らかにすることができた。
DJ-1結合化合物による根本的神経変性疾患治療薬の開発に欠かせないステップに結合化合物存在下でのDJ-1結晶構造解析がある。これについて、東京大学大学院理学研究科との共同研究により実施し、PTEN, VMAT2を含むDJ-1結合タンパク質との結合様式との比較等からDJ-1結合化合物の薬理効果機構を解析する。
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Biochem.Biophys.Res.Commun
巻: (in press)
J.Biol.Chem.
巻: 286 ページ: 19191-19203
M110.216259v1
Mol.Neurodegeneration
巻: 6 ページ: 48-66
10.1186/1750-1326-6-48