網膜の神経視細胞にはリボンシナプスと呼ばれる特殊なアクティブゾーンが存在する。これまでの米国の先行研究からアクティブゾーン蛋白質CASTは興奮性のシナプス伝達には関与せず、抑制性のシナプス伝達のみを制御すると考えられていた。しかし、CASTノックアウトマウスの網膜シナプスの解析から、CASTが少なくとも網膜シナプスの興奮性伝達に関与していることを示唆するデータを得た。また、網膜視細胞のリボンシナプスの形態を各種のリボンシナプスマーカーで調べたところ、CASTノックアウトマウスの網膜リボンシナプスはその長さが野生型に比べおおよそ半分になっていることを見出した。このサイズの減少に伴い、リボンシナプスにおける重要な機能分子であるカルシウムチャネルのシグナルもおおよそ半分に減少していた。一方で、ファミリーメンバーELKSの発現は約2倍に増加しており、CASTの欠損を補うべく相補的に発現が増加していると示唆された。このことにより、アクティブゾーンの形成・維持にCASTが関与していることが初めて明らかとなった。現在、このCASTノックアウトマウスを用いて、海馬、小脳、大脳皮質のアクティブゾーンの微細構造を解析中である。さらに、CASTノックアウトマウスでは、加齢に伴って異所性のシナプス形成が顕著に観察された。特に、通常はシナプスがほとんど存在しないouter nuclear layerに、突起の潜り込みが見られ、リボンシナプスマーカーであるEIBEYEのシグナルが検出された。このような分子・細胞レベルの変化のみならず、マウス行動実験を用いることで、CASTノックアウトマウスが視力障害を呈していることを見出した。これらの成果は、The journal of Neuroscience誌に採択・掲載され、当該雑誌の表紙を飾った(文献リスト2)。
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