研究概要 |
本研究では生物の老化にともない脳神経系の活動的応答性、特に「神経可塑性」が低下する現燐とメカニズムを追究する目的で、神経の構造可塑性の制御に関係深い神経骨格、すなわちアクチンとチューブリンの制御に関わるShc系のホスホチロシンシグナル分子とSCG10系の微小管制御因子の発現と機能性について研究を進めた。 まず、Shc系分子については、長寿命遺伝子といわれるp66-Shcの発現を脳と肝臓の老化過程での発現を比較検討した。その結果、老化脳ではp66-Shcの発現が有意に上昇していることを見出した。ShcB,ShcCの発現変動は特になかった。p66-Shcはストレス感受性マーカーでもあるので、老化脳では細胞ストレスが亢進していることを反映していると思われた(Sone et al.投稿済)。また、脳での発現が強いShcCについて、老化、寿命との関連を論じた総説をとりまとめた(Mori and Mori,2011)。 SCG10関連分子(ホモログ)のひとつであるSCLIPの遺伝子制御に関してNRSFの関与があることを証明したが、従来のサイレンサーNRSと異なり位置特異性があることを見出した(Sone et al.,2011)。NRS-NRSF系は種々の神経特異的分子の神経特異的発現を規定するが、がん細胞ではその制御が崩れる。その傾向を特にβIIIチューブリン遺伝子について示した(Shibazaki et al.,2012)。 老化脳では神経可塑性が低下することは海馬などでよく知られていたが、小脳の平行線維からプルキンエ細胞へのシナプスの可塑性が老化脳で極度に減退していること、その原因が酸化ストレスにあることを見出した(Kakizawa et al.,2012a)。この知見をもとに老化脳での可塑性低下のメカニズムについて総説をとりまとめた(森、柿澤,2011)。東大、京大との共同研究で、この可塑性低下を規定する分子が神経の小胞体膜上にあるカルシウム透過チャネルであるリアノジン受容体であることを突き止めた(Kakizawa et al.,2012b)。今後は、この分子のシステイン残基のニトロシル化と酸化の競合について老化脳で検討していく必要がある。
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