感覚神経のミエリン形成とその脱ミエリン現象のシグナル伝達機構を明らかにするために、独自の初代シュワン細胞-神経節神経細胞共培養を利用し、RNA干渉法や細胞透過性低分子化合物を用いて、そこに関与する分子を同定した。前者はシグナル伝達分子を中心にして当研究室で独自に作成された線状型RNA(shRNA)ライブラリーを用い、後者は細胞透過性の配列を付加したペプチドライブラリーを用いた。 さて、マウスやラットのミエリン形成過程は胎生中期から数ヶ月におよび、いくつかの発生過程に分類される。現在まで、初期から中期過程であるシュワン細胞の細胞遊走期から前ミエリン形成期に関係する新しいシグナル伝達分子がいくつか単離されている。そのなかで、とくに重要なものとしては、低分子量GTP結合蛋白質の活性化因子としてDock7という分子であり、研究代表者らがクローニングに成功したものである。昨年度まで研究で、これらの生化学的機能に関して明らかにした。 さて、本年度は、とくに、その生体内での役割を明らかにするために、その遺伝子改変マウスを作成することを計画していた。実際に、遺伝子改変マウスの作製に成功し、いくつかの知見を得ることができた。その結果「感覚神経組織でDock7が阻害されると、ミエリンの容量が非常に増えている」ことが判明した。つまり、正常なマウスに比べ、厚いミエリンができていたのである。このことからDock7はミエリン形成を阻害する分子であり「生体レベルで、それを機能阻害するとミエリン形成が促進される」ためDock7が脱ミエリン現象(またはミエリン形成不全)を改善できる創薬標的としての可能性をもつことが示唆された。 予備実験の結果であるが、実際に、このマウスを脱ミエリンモデルマウスと交配したところ、脱ミエリンモデルマウスの脱ミエリン現象が改善されることが判明した。
|