睡眠時には代謝が低下し遺伝子発現も低下するが、脳の疲労回復や記憶の定着など積極的な活動も行われている。しかし、睡眠中に起きる脳の疲労回復や記憶定着の制御機構は不明である。我々は、睡眠時のマウス脳内の神経細胞において転写因子SOX5のエクソン2の一部が欠損した新規スプライシングアイソフォーム(SOX5t2)の発現が上昇することを発見した。本申請研究では、睡眠時のマウス脳の神経細胞におけるSOX5t2の機能解明と睡眠制御の解明を目的とする。平成22年度は、(1)SOX5と相互作用するタンパク質を同定するため、マウス神経細胞株であるNeuro-2a細胞にSOX5t2を導入・過剰発現させ、細胞抽出液を調製し、抗SOX5抗体を用いて免疫沈降後、LC/MS/MS法により約51個の候補タンパク質を単離した。また、睡眠時のマウス全脳から細胞抽出液を調製し、リコンビナントSOX5t2タンパク質を半田ビーズに固定し、約159個の候補タンパク質を単離した。(2)Neuro-2a細胞にSOX5t2アイソフォームを強制発現させると、ヒト神経細胞株SH-SY5Y細胞の場合と同様、神経突起のspine形成が誘導された。このことは、睡眠中の脳内において、SOX5t2が神経細胞のシナプス形成などの機能に関与する可能性を示している。(3)SOX5t2の神経細胞における発現に必要な領域を決定するため、SOX5のプロモーター配列を単離した。(4)AAVベクターを介し、部位特異的にSOX5遺伝子をノックダウンするシステムを構築した。さらに、時期特異的にマウス前脳に存在する神経細胞のSOX5発現をノックダウンさせるため、CamKII-tTAあるいはNSE-tTAマウスとtetO-Creマウスおよびflox-SOX5マウスの交配を開始した。
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