長期記憶は、記憶内容が海馬に入力された後、しばらく時間を経てから、側頭葉新皮質内に固定され、記憶痕跡が形成されると考えられている。しかし、その記憶痕跡がどのようにして形成されるのか、また、この記憶痕跡が記憶の想起においてどのような役割を果たすのかについては、ほとんど解明されていない。この研究は、ヒト側頭葉内における長期記憶痕跡の形成機構、および、その記憶痕跡の記憶想起メカニズムに対する役割を解明することを目的とする。 今年度は、高解像度画像を用いて、脳機能領域を同定する方法の開発に着手した。脳領域間の相互作用を計算するうえで、fMRIの空間分解能が重要である。通常のfMRIでは、4mmないし3mm程度のボクセルで計測が行われているが、脳溝の両方のバンクを区別し、また海馬の複雑な構造との対応づけをするために、2mmないし1.5mmのボクセルサイズでfMRI計測を行う。ボクセルサイズが半分になると、ボクセル数が8倍になり、相関の計算量はボクセル同士の組み合わせに比例するので、64倍になる。計算量の著しい増大に対応するため、通常のPCではなく、スーパーコンピューターを導入した。 また、膨大な計算量を必要としない新しい方法を開発することに成功した。さらに、高解像度MRIスキャンを実施し、開発した脳機能領域の同定方法を適用したところ、中心溝付近や下前頭葉において予想される機能的境界を描出することができ、来年度以降の記憶研究に応用する準備ができた。
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